第1話『出会い』 「そこのお嬢さん!!」 「…え?」 行き成り目の前に現れた男性。その人はこちらを見てにこにこと笑っていた。 声をかけられた満月は辺りをキョロキョロと見渡す。そして辺りに同じ年代の子を見かけなかったので満月は自分を指差して首を傾げた。 「お嬢さんって…私のこと?」 「うん。君しかいないでしょ!僕の目の前にいるお嬢さんはっ!!」 男性は少し焦った口調で目の前の満月に話す。満月はそんな男性の反応を気にもせずにこりと笑った。 「何か用ですか?」 「用…?…はっ!そ、そうだよ!君、バトルに参加しないか?」 「ば、バトル…?」 満月は眉間に皺を寄せて男性を見た。彼はベラベラとその”バトル”について説明をしている。 なんだかよく分からないし、現実離れすぎて理解出来なかった。明らかに迷惑そうな顔をしているのだがそんな満月にも気づいていない。 「そして、”空白の才”を手にいれると自分の欲しい”才”が一つもらえるんだっ!!」 「はぁ…」 右手をぎゅっと握り締め熱弁する。それを見た満月は感嘆して頷いた。 ここまで、熱弁できる人なんていないかも…。 佐野が温泉について話す時並みだ…。 幼馴染である佐野を脳裏に浮かべながら目の前の人を見る。 ……似てる。 「それでっ!!君にそのバトルに参加して欲しいんだ。」 「へぇー…で。能力って何があるんですか?」 「まぁ、ざっとこんなもんだね!」 どこから取り出したのか、1枚の紙切れを取り出す。そこにはずらーっと能力が書かれていた。余りの多さに満月は気が遠くなった。 こんなにあるのっ!!!? 米粒並みに小さい文字で書かれたリストを見て満月は唖然として、即座に断ろう!と思った。 「あ、あのぉ…私には無理そうなんで遠慮させて頂きますね…」 満月はそろり、そろりと男性の横を通って通り過ぎようとした。だが、その男性がふいに呟いた言葉で足を止めてしまう。 「…佐野、清一郎…」 「!!」 「彼も、このバトルに参加するみたいだよ?」 思わず足を止めて振り返る。それをおかしそうに男性は笑ってみていた。その態度が癪に障り満月は眉間に皺を寄せる。 「君も、参加するよね?彼は幼馴染なんでしょう?彼を危険な目に合わせたくないでしょう?」 「…それってほとんど脅しじゃない。」 満月は不貞腐れた表情で男性を見た。それでも彼はにこにこと表情を崩さない。どうやら、彼は私を諦めて他に行く気はないらしい。 はぁと深く溜め息をついた後、めんどくさげに頷いた。 「分かった。そのバトルってやつに出てあげる」 「本当!!?」 「た・だ・し!!」 嬉しさのあまり身を乗り出してきた男性の鼻の前に人差し指を突き出す。 ピタリ、と止まった彼を見て満月は今までに無い真剣な表情で問うた。 「私は別に”空白の才”が欲しいって訳じゃない。貴方の為に優勝する気もない。自由にやらせてもらう。…それでいい?」 目を瞬かせたあと、彼は今までに無いような嬉しそうな顔をして微笑んだ。 「勿論。さすが僕が見つけただけある…」 「??」 「じゃあ、君に能力を授けるよ。何が良い?」 先ほどのリストをもう一度見せてもらう。何十個も並んでいるのに不思議と一箇所だけ目がひいたのがあった。 満月は迷いもなくそれを選ぶ。満月が選んだ能力を見ると今度は困ったように眉尻を下げた。 「こ、これは君には…」 「文句あるのー?どうせ戦うんだったら強くないと…」 「で、でもっ!他にも君に合うような”雑草を花に変える能力”とか”はさみを棘(いばら)に変える能力”とか…!!」 彼は満月を説得させようと次々と女の子に合う能力をあげていくが全く相手にされなかった。 あたふたしてる男性を見てクスっと笑ったあと、空を仰いではっきりと言った。 「”鉛筆をナイフに変える能力”。私にはこれがあれば良い」 綺麗な綺麗な青空が広がっている。 満月は目を細めてそれを眺めた。その男性も満月に続くように空を見上げる。 そして彼は満月に向かって一言消え入りそうな声で呟いた。 「…どうか、無茶はしないでください」 この少女は見かけとは裏腹に活発な少女という事が分かった。 だから余計に心配をしてしまう。自分のせいで巻き込んでしまった。それは分かっているが僕には彼女以上の子を見つけられなかった。 彼は同じく神候補である2人を思い浮かべる。 小林さん…… 犬丸君…… 「お兄さんっ!!」 「…え、えっ?」 呼ばれて空を見上げていた顔を下に戻す。どうやら空を見上げたまま思い耽ってしまっていたらしい。 満月はこちらを見て右手を差し出されている。何がなんだか分からない。彼は不思議そうにその右手と満月の顔を凝視する。 それを見て満月はプっと噴出した。 「私、神崎満月。これからお世話になりますっ」 「!」 満月のやろうとしている事が分かり、彼もまた笑顔で右手を差し出した。 「僕は、翡翠。君の担当になるものだ」 そして2人は強く手を握り合わせた。 「私達、今日から友達ねっ!!」 今日2人が出会ったこと。 そして、握手を交えたこと。 これは一生忘れる事の出来ない思い出への始まりになるだろう。 2人は”神候補”と”能力者”とではなく ”友達”として、このバトルに一緒に挑む事を決意した。
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