第5話『ルール違反。そして約束』
「お。」
炎を纏った栗がこちらの方へと向かってくる。それを頭の手拭いを鉄に変えてはじき返した。
「プハッ!!危機一髪や…」
「うわ、凄い!」
それを見て満月は驚いた。佐野が能力者なのは知っていたがどんな能力なのか分からなかったからだ。
うーん。でも、『鉄』だと私の『ナイフ』じゃあちょっとキツいかも…。
「そういやあの緑の髪の子!凄い子だねー」
「あぁ。植木…!同じ能力者として相手にとって不足なしや!!」
「………」
ふーん。あの子、植木って言うんだ。同じ能力者として覚えておこうっと。
「……ん?」
そこで満月は体育館の隅で倒れている女の子に目がいった。頭にメガネをかけて気を失っている。
え!!?凄く可愛い…っ!!!!!(悶)頭に眼鏡とかポイント高いよっ!!
何で今まで気づかなかったの、私!(それは真剣にバトルを見ていたから)
森を見た瞬間満月は悶絶し始めた。実は満月は無類の『可愛いもの好き』なのである。
暫く唸るように悩んだあと、決心がついたのか柵に足をかけて飛び降りた。佐野は急な展開に目を丸くしていて止める事も忘れている。
スタッ
「「!!」」
行き成り現れた人物を見遣る。2人に注目された満月はただにっこりと微笑むだけ。そしてズカズカと森の方へと近寄っていった。
「おい。アンタ誰?」
「私?気にしなくても良いよ、植木君」
「なんで、俺の名前…」
「それよりも植木君は平をやっつけて。この森ちゃんvって子は私が守ってあげるから!」
親指をたててグッと植木に向ける。それを見て暫く無言だったが植木はこくんと頷いた後、平の方へと向き直る。
「森のこと、頼んだ」
「任せて!」
「この左目の代償は高くつくぞ!植木!!」
「……満月のやつ、何やってんねん」
平と植木の対戦に入り込んだ満月を見て溜め息をつく。大方、可愛いもの好きに目が無い満月のことだ。
あの森っていう少女に惚れこんだのだろう。その証拠に頬擦りしそうなほどにぎゅっと抱きしめている。
理由が理由なだけに更に溜め息をつく。これも相変わらずか…。
それにしても……さっきの一撃で仕留めとんかったのはまずかったな、植木。
「オレは”空白の才”で”支配の才”を手に入れ…世の中の邪魔な奴を支配してやるんだよ…!それには………てめぇは邪魔だ!!!!」
先ほどよりはやい炎の弾。避けたと同時に起きる凄い爆破音。
「な…」
振り返ってみると、攻撃の当たった部分が焼き焦げていた。
「ただの炎じゃないぜ?これも俺の能力の応用…”炎弾”だ!炎を圧縮し、”弾”として一気にはき出す!
今までの炎みたいに燃やすことができない打撃系の技だが…そのぶん、攻撃速度は格段に増す!!」
勝利を確信してか、平は口の端を吊り上げて笑った。それを見て満月は眉尻を上げる。
自分に慢心するなんて…。
「これで――――形勢逆転だな!!」
「ん?ああ、ゴメン…今の説明全然理解できなかった」
「て…てめえ…!!」
植木の反応に平は血が上がったのか、後ろに背負っている鞄からペットボトルを取り出す。
そして先ほどと同様に炎弾を打ち出す。ただし、一発ではなく連発で植木を襲う。
「!!!」
避けきれなかった一発の炎弾を食らうと次から次へと飛んでくる。
植木は耐え切れずその場に倒れた。
「植木君!!」
「ははは!やっとくたばったか!!そのまま気絶しちまえよ、植木。
そうすりゃお前の負け…ゲームオーバーだ!その木の能力もなくなって普通の生活にもどれるぜ。」
植木への勝利を確信した平は高らかに笑った。そして満月と森の方へと視線を動かす。
「…さてと……次は、そっちの邪魔女だな。」
「…この子に手を出すんだったら、容赦しないわよ?」
「誰だ?お前は。邪魔するきかぁ?」
満月は森を巻き込まないように端へと連れて行く。そして、平と向き合った。
その表情は先ほどのような笑顔は無く、冷たいものだった。
「能力者でもねぇ、お前に何が出来るんだよっ!!」
「……能力者、ねぇ…?」
満月は不敵に笑ったあと、スカートのポケットに左手を突っ込んだ。と、直ぐに手ごたえのある鉛筆達。それを一本一本指の間に挟む。そしてポケットから手を引き抜こうとした瞬間、満月は目を見開いた。
その様子に平も後ろを振り向く。そこには―――――
「な!!?」
「まさか!立ちおった!」
佐野も驚き目を見張った。その場にいた誰もが目を疑った瞬間だった。
負けたと思っていた植木が立ち上がったのだ。
「フンッ!!ど…どうやら手加減しすぎちまったらしい……」
「植木君…」
「これで終わりにしてやるよ!!”炎弾”1000℃だ!!」
平は植木の左肩を狙って炎弾を撃った。確実に当たって植木は吹っ飛ぶ。だが、直ぐに立ち上がり平と向き合った。
その植木に平は焦ってリュックに手を突っ込み直ぐにでも攻撃をしようとした。
「………!?」
だが、手にペットボトルの感触は伝わらない。辺りを見渡すと空きのペットボトルが沢山転がっている。
攻撃する術がなく焦っている平に聞きなれた声が聞こえてきた。
「水ならあるですよ―――!!」
ドスン――ッ
「冷蔵庫…?」
「だめですよ平くん。お水は節約しなって、あれほど言ったですのに…。ちゃんと僕の言ったことはきかなきゃですよ。」
平の後ろに現れたのは小さい人間だった。誰かは分からない。ただ、敵の味方だということは分かる。
「たとえそれが反則でも…。僕が…神になるためだったらね!」
「!!」
神…!?って事はアイツも神候補の1人だって言うの…?!
満月は冷蔵庫から水を取り出しうがいをしている平と『ラファティ』と呼ばれた平の神候補を凝視した。
神候補がバトルに手を出すのはルール違反だったはず…。なのに普通に手を貸している。しかも私利のために…!
満月は奥歯を噛み締めその光景を見ていた。しかし、そんな余裕は無い。平は植木に向かって”炎弾”3000℃を放ったところだった。
「植木君…!!」
当たる…!
そう思った瞬間だった。炎弾は植木の直前で軌道を変えたのである。満月は目を見開いて見た。
すると、そこには植木の前に佐野が立っていたのである。つまり炎弾の軌道を変えたのは能力を使った佐野だということ。
「清一郎…」
「…ばかな!!あの技をあっさりはじいただとぉ!?」
神候補は驚き相手を凝視する。平は佐野の持つ手ぬぐいを見て怯えた。
「温泉マークのてぬぐい……稲穂中の…佐野清一郎!!?」
「なに!!佐野…!!?」
平の言葉に神候補も驚いたようだった。しかし、驚いたのはこの2人だけでは無い。満月も驚いていたのである。
清一郎ってそんなに有名だったの…?知らなかった…。
佐野の名前を聞いて明らかに弱気になった2人を見て満月はそう思っていた。と、平の神候補が不審な動きをした事に気づく。満月は、はっとして佐野の方を見るがすでに遅かったようだ。
「!!!……体が動かん…!!」
「さすがの君も手足を動かせなきゃなにもできまい?さあ、平くん!2人いっぺんに火葬してあげるんです!!」
咄嗟に体を動かして佐野たちの方へと向かう。が、それは叶わなかった。
「満月っ!!来んなっ!!!」
「…えっ!」
「満月はなんも関係あらへん。こっち来んなぁっ!!」
佐野に行く事を咎められて足がピタリとその場に止まる。その時やっとラファティは満月の存在に気づいた。
満月を視界に留めると目を見開いて驚いた。
「…満月?ひょっとして君が神崎満月?」
「え?」
「くくっ…丁度良い。2人を火葬した後に君も火葬してあげましょう。いやぁ、驚いた。まさか君までここにいるとは…」
「「!!」」
満月は自分の事を知っていた事に驚く。
ここで一気に能力者3人倒すつもり…!?
足に力を入れて踏み締めた。目を細めてラファティを見る。
そして、佐野もまた驚いていた。
なんで満月の事を知ってるんや!?
一般人である満月の事を知っている目の前の神候補。そして満月の名を聞いて今まで平然としていた平の顔が少しだけ強張った。
何がどうなってるんや―――!!?
「さあ平くん!!2人まとめてブッ殺せです!!」
「!!!」
ちっ…!満月の事も気になるが今はこっちの方が先や…!
どうせ動かん体や……そんなら――――
「ぶっ倒れるまで…植木の楯にでもなったるか。
今回だけやで植木。今日は特別サービスデーや!」
目前に迫る炎弾。横で満月が叫んでるのが分かるが耳には全然届いていなかった。どうする事も出来ず奥歯を噛み締める。今まさに炎弾が当たると思ったとき―――――
ドゴォォ――ッ!!
「!?」
「な…!?」
何が起きたか分からなかった。長く伸びた木の先には平が気絶しているのが分かる。それは植木が攻撃したことを意味している。
とりあえず、佐野は無事だ。そう思った瞬間力が抜けてその場に満月はしゃがみ込んだ。
佐野も体が自由に動く事を確認した。ラファティはただ呆然とその光景を見詰める。
「ば…ばかな…」
「どうやら平は完全に気絶しとる……あいつはゲームオーバーや。能力を失い普通の日常にもどる。
まだやるんか……」
「!! ぐ…ちぐしょー!!!!」
ラファティは涙を浮かべその場を立ち去った。そして訪れるのは静けさだった。
すると植木は後ろに倒れたかけたが佐野に支えられたので倒れる事は無かった。それを見て満月はホッと息を吐いた。
終わった…。
やっぱり、このバトル生半可な気持ちでやっていたら駄目だ―――!!
俯いて膝の上でぎゅっと手を握り締めた。そして今このバトルで学んだ事があった。
大切な幼馴染が危ない所だったのに何も出来なかった無力な自分…。
悔しくて悔しくて、仕方が無かった。
じっと俯いている満月に影が覆いかぶさった。
「!」
「満月…無事やったか?」
「…っ!バカ!!」
「ば、バカぁぁっ!!?」
満月は思いっきり叫んだ。佐野はその言葉にカチンときた。人が折角心配しよったのに…!
そんな気持ちで口を開くが、言葉が出る事は無かった。
顔を上げた満月が泣いていたからだ。
「ひ、人がっ…どれだけっ、心配っ、したと思ってんのよっ!!!」
「……満月」
「し、死んじゃうかと、思ったんだからぁっ!!」
わぁぁっと両手で目を覆ってまた俯き泣き出してしまった満月に佐野は笑みを浮かべた。そして、満月の目の前にしゃがみ込むとぽんっと優しく頭の上に手を置いた。
「心配かけてスマン…」
「…うんっ」
「だから、もう泣くなや…」
「…っ」
ごしごし、と目を擦って顔を上げる。
はっきりとした口調で満月は佐野に言った。
「もう、無茶な事はしないで」
「あぁ」
「約束、だよ?」
「あぁ!」
「…今度は私が助けてあげるから…」
「ん?何か言うたか?」
「ううん、何も。それよりも植木君は?!」
先ほどのバトルで重傷を負ったであろう植木の方を見る。―――と。
「腹減った!」
大の字になって倒れていた。
それを見た佐野と満月は顔を見合わせて笑った。
続
難しかったです…戦 闘 シ ー ン が !!!
やっと2巻に突入しました…っ!この後は満月さんのオリジナルになってしまいます。
最初に説明している通り満月さんのライバルが現れてきます。
原作沿いにしたかったんですが、なんせ満月さんは佐野君と一緒…。なおかつ佐野君は7巻まで出てこないっ!!
こ、これじゃあ進めないっ!!!
と、言う事で7巻で植木が十団全員ぶっ倒す所に一気に飛びます(笑)
話の流れとしては実質2巻の前半〜7巻の前半の間です。その間に満月さんには強くなって頂く為色んな方と出会い、戦って頂きます。
話は繋げるように致しますのでまたお付き合い頂けると幸いです。
2005.8.27
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