第16話『仲間』
明神戦から3日後。私は、負傷した鈴子の病室にあいちゃんとお見舞いに来ていた。
あの後、すっかり仲良くなった私達はお互いを呼び捨てで呼び合うまでにいったのだ。
「ごーーめーーんーーねーーーーー!!!!」
病室に来てすぐに、あいちゃんは鈴子に謝罪を述べた。
そんなあいちゃんにすっかり恐縮しきっている鈴子。
「鈴子ちゃん〜!!あんなバカ植木のせいでこんなケガ〜〜!!
髪の毛までバッサリ切られちゃったんでしょ〜〜!!?」
「い、いいのよ、あいちゃん!私が勝手に植木くんのためにしたコトなんだから!」
「でも、今の前は鈴子は髪長かったんでしょ?見てみたかったなぁ、私・・」
髪の毛の長い鈴子を想像してみる。
想像しても可愛らしく凛々しい鈴子に、にへら〜と笑ってしまった。
そのニヤケ顔に2人は気づいていなかった(良かった・・!
「あ、そうだ、あいちゃん。後で植木くんに謝っといて?」
「へ?」
「私のせいで植木くんに足どめさせてしまいましたわ。すぐにでもロベルトの所に行きたがってたのに・・・」
「しょーがないじゃん。鈴子ちゃんしかアジト知らないんだし」
あいちゃんは首を横に振って気にしないで、と言った。
私も鈴子が気を落とさないように笑顔で接する。
「そうだよ、鈴子。植木くんもなんかやるコトあったみたいだから大丈夫だよ」
「そうなんですの?」
「うんっ」
それを聞いてほっとしたのか、鈴子も笑ってくれた。
あぁ〜。鈴子の笑顔は可愛いなぁ・・・うへへ・・。
久しぶりに保養された気分・・・。
満月はまたニヤけていた。(おっと・・!
「あ、じゃあそろそろ行くね!また明日くるから!」
「うん。」
「私はもうちょっと居るよ」
「そっか!じゃあね、鈴子ちゃん、満月ちゃん!」
私はあいちゃんに手を振って見送った。
パタン、と扉が閉じて2人きりになる。
そこで私は一息つくと鈴子に問うた。
「・・・何か、私に聞きたい事があるんじゃない?」
「え・・?」
思いつめた表情をした鈴子を覗き込むようにして聞いた。
ふいをつかれて、キョトンとしてる鈴子を見て笑う。
「気づいて無かったかも知れないけど、結構私に訴えるような視線くれてたよね?」
「い、いえっ・・そのっ・・!」
「いいの、いいの。気にしないで。私ら友達でしょ?言いたい事があるんだったらバッチリ聞いてくれてオッケーよ!」
胸をはっていう満月を見て鈴子は決心した。
辺りに張り詰めたような雰囲気が流れる。
「・・・満月は、”孤高の戦姫”と呼ばれてますの?」
「・・・・」
・・やっぱり。と、思った
鈴子は能力者。それでいて元ロベルト十団なのだから、きっと私の呼び名も知っているだろうと思っていた。
だから、その事について聞かれるのかなと思ってたから別に驚くこともせず普通に振舞った。
「うん」
「じゃあ、やっぱり満月は、神崎満月なんですね?」
「そう」
「・・・・」
鈴子はぎゅっと布団を握り締めた。
何かを、耐えるようなそんな握り方で、前の自分と被って見えた。
血が出ないように、満月はその手に自分の手を重ねそっと包み込んだ
「鈴子は私のこと、どう思ってるかは分からないけど、私は・・」
「そんな事無いですっ!!」
「・・・え?」
鈴子らしくはない大きな声で満月はビックリした。
部屋に響く自分の声にも気にならないのか、そのまま話し続ける。
「私は・・私は・・、”孤高の戦姫”に会って見たかったんですっ!!
私が能力者になって、満月の噂を聞いて凄く尊敬しました。」
「・・・・」
「同じ女の子でも、頑張ってるんだって。それと同時に私も負けたくない。そう思ったんですの。
なのに、何故そんな方がロベルト十団に居なかったのかも不思議に思いましたわ。
だけど、今ならその理由が分かる気がしますわ・・。 ”孤高の戦姫”は何の見返りも望まず戦い続けている”正義”の方だと。」
・・・違う。
私は、そんなに強く、ない・・・。
それは、ただの”噂”で”真実”じゃない・・・。
笑顔でこちらを向く鈴子の視線が痛かった。
嘘をついてるような気分だ・・。
満月は、鈴子の目を見て静かに首を横に振った。
「・・違う。違うよ、違うんだよ。私は確かに”孤高の戦姫”かもしれない。だけどね、そこまで私は強くないんだよ・・・」
「満月・・?」
「その名前は今はもう居ない、神候補が残していった名前なの。大方、私に強くなって欲しいからそんな名前残したんだろうね。噂が立てば必死になってその噂通り強くなろうとした筈だもの・・。人を騙すような事はしたくないから」
「・・・」
「だからね。私は”孤高の戦姫”であって”孤高の戦姫”ではない。ただの、神崎満月なんだよ」
「満月・・・!」
鈴子は耐え切れないのか、ベッドから降りて隣に座っていた私を抱きしめた。
温かいぬくもりを感じて目を見開く。
ただ、何を言う訳でもなくぎゅっと抱きしめる。
「・・そんな、辛そうな顔をしないで下さい」
「・・・」
「ごめんなさい、満月。私なにも知らないのにそんな事言ってしまって」
「えっ・・。いや、鈴子が気にする事じゃ・・」
「気にします!!」
鈴子は更にきつく満月を抱きしめた。
「私達は友達なのでしょう?だったら、友達が嫌だと思った事や辛い思いをさせてしまったのなら謝るのが当然ですわ」
「・・・」
「私、満月が友達だって言ってくれて嬉しかったんです・・本当に、嬉しかった・・・」
今度は鈴子が泣きそうな声で言った。
それでも、言葉を紡ごうとする鈴子を今度は満月が抱きしめてやる。
「・・鈴子。今から言うこと、聞いて、くれるかな・・」
「・・はい」
「・・・初めて誰かに言うことだから、上手く伝えられるか、分からないけど・・」
「はい。私で良ければ聞きますわ」
お互いに抱きしめる腕の力を緩めて顔を見合った。そして笑顔を交わす。
満月は、神候補の翡翠の事や、今私自身が思っていることを全て打ち明ける事にした。
「私の、神候補はね、翡翠って言って凄い優しい神候補だったの」
脳裏に浮かぶのはドジをやったり、怒ったり、笑ったり、いろんな表情を浮かべる翡翠。
バトルに参加して翡翠と出会えて凄く嬉しかった。
でも、私と翡翠はそれほど長くは居れなかった。
ある能力者の所為で・・・。
ぎゅっと拳を握り締めた。それを見た鈴子は先ほど満月がしてくれたように優しく包み込んだ。
そのおかげで幾分か気分を抑えることは出来たが、心の中で渦巻く黒い感情は抑えられなかった。
「・・紫水っていう能力者、知ってる?」
「紫水・・ですか?・・・そういえば、聞いたことがありますわ」
「そいつに、翡翠は地獄に落とされたの」
「!?」
今でも思い出すだけで嫌になる。
そして、自分の無力さにも・・。
「私は、紫水を倒すまで負けるわけにはいかないの。何があっても、絶対に・・」
「満月・・・」
「でもね・・」
「?」
ふっと力をいれるのをやめて弱弱しく笑った。
「私、一度だけ人を斬っちゃったんだよ」
「・・!!」
犬丸とあいちゃんと3人で植木くんの元に行く途中のことだ。
たまたま、能力者に遭遇してしまった。
勿論、そこに居た能力者は私だけだったから、2人を先に行かせて巻き込まれないようにしたの。
その時だった。
相手の能力に追い込まれた私は咄嗟に近づいてきた相手の腹を切り裂いてしまった。
返り血は浴びなかったものの、草の上に落ちる血。
相手はそのショックで気絶して倒れたが、私もその場に足が竦んで動けなくなった。あの後、心配して戻ってきてくれた森と犬丸が居なかったら多分私はずっとその場に居ただろう。
暫く私は自分の手を見て呆然とした。
今、何をした・・・?
私は、この人を、斬った・・・?
ナイフについた血痕が何よりの証拠だった。
「私の能力はね、”鉛筆をナイフに変える能力”なの・・」
「・・!」
「人を斬る感触って…凄い、怖いん、だね…。私…この能力を貰って後悔しちゃった」
満月はぎゅっと自分の右腕を左腕で押さえつけた。
今でも生々しく残っている、人を斬った、感触・・・。
鈴子は満月をじっと見つめる。その表情は泣きそうで、辛そうだった。
「人を傷つけたくない……怖くて、怖くて、傷つけられない…!」
もう、あんな感触を味わいたくない。
「満月!!!」
「・・っ!!」
いつのまにか俯いていた顔を名を呼ばれて上げる。
見ると前には泣きそうな表情をしてる鈴子が居た。
「・・もう、良いです。何も言わないで下さい。満月が、辛いのは分かりましたから・・」
「・・・っ」
鈴子の言葉が、温かい・・。
ありがとうね、鈴子。
だけど、私ね。こうやって人を傷つけることに後悔してるのに、バトルを止める気は無いんだよ。
それは、植木くんのおかげ・・・。
「でも・・これは、過去。今の私は違う」
「え?」
「・・私は人を傷つけるのが嫌い。怖くてそんな事出来ない。だけど、バトルは止めない。・・矛盾してるでしょ?」
苦笑して満月は鈴子に言った。
分かってるよ、自分でも。
おかしな事言ってるな・・ってことは。
でも、これは自分で決めたことだから・・・・。
「翡翠が残してくれた能力だもん。どんなに怖いものでも、大切に使いたい。
そして、本当の”孤高の戦姫”にこれからなろうと思うの。
この名の品を落とさない為にも強く、強くなってやる・・。」
「満月・・」
「今はどんなに弱くても、強くなってやるんだ・・!!」
そう言い張った満月には迷いなどは無かった。
先ほどの弱弱しい満月はどこへやら、今は凄く凛としている。
やはり、満月は強いですわ・・。
私も・・・。
今の話を聞き、勇気が出たのか鈴子は決意した。
植木くんをロベルトの所には行かせない――!!
鈴子は布団から出て、靴を履いた。
その行動に驚くのは当然だ。外に向かおうとする鈴子を止めようとする。
「なっ・・何処行くつもりなの?鈴子!」
「私は・・私は行かなくてはなりません・・」
「何処へ!!?」
「植木くんの所に、ですわ」
「・・!?」
満月は驚愕の表情を浮かべる。
だが、鈴子は気になっていないのかボロボロの体を動かし病室を出ようとする。
「どうして!?なんで、植木くんの所に・・」
「私は、ロベルトの所に植木くんを連れて行きたくはありません」
「?!」
「植木くんを・・死なせたくはないんです・・!!」
あまりに懇切をする鈴子に満月は何も言えなくなってしまった。
じっと泣きそうな表情で見てくる鈴子。
私はどうしたら良いのだろうか・・。
満月は立ち上がった鈴子をベッドに座らせる。
そして向き合うと真剣な眼差しで見つめる。
「・・・言って」
「え?」
「さっきは私の話を聞いてくれた。だから、今度は私が聞く番。
思ってること、全て私にぶつけて構わないから。だから、1人で背負おうとしないで・・」
「!」
今の鈴子は何でもかんでも1人で背負おうとしているようだった。
辛い、苦しい。
そう体は訴えているのにそれでも1人でやろうとして無理している。
そんな事をしたら、自分が壊れてしまうかもしれないのに・・。
だから、満月は言った。
全て背負おうとしないで。
ここに、貴女の事を思う”仲間”がいることを忘れないで。
もっと他人を頼っても良いのだから・・・。
「・・っ。私・・」
「もう・・鈴子は泣き虫だなぁ・・」
「・・・うぅっ・・!!!」
鈴子は耐え切れず満月に抱きつき泣き続けた。
相当、苦しかったのだろう。
自分で悩んで自分で決めた事に・・。心が限界だったのだ。
それを和らげたのは満月。
今まで”友達”というものが居なかった鈴子には温かすぎる存在。
新たに出来た、友達でもあり、仲間でもある満月に多大な感謝をしていた。
ありがとうございます・・満月・・・。
5日後。
私と鈴子が病室にいる間に、植木くんはロベルトから招待状を貰っていたらしい。
早速、私達は地図にかかれた場所へと向かう。
「家で1人で心配してんのうはもうまっぴらよ!!!」
危険を顧みず一緒について来る森に満月は凄いと思った。
相手はロベルト・ハイドン。能力者の間では知らない人は居ないと謳われる程の人物に恐れないとは・・。
流石、あいちゃん・・!!
満月は嬉しそうに後ろから森達を見守った。犬丸と一緒にゆっくりと植木達の後を追う。
「あんたこそ今日の目的ちゃんとわかってんでしょーね!!」
「もちろん!佐野を助けて仲間にする!!そんでロベルトをぶっ倒すんだ!!!」
今度こそ、ロベルトを倒す――――!!
続
16話目でした。
鈴子ちゃんには植木くんの元にはいきませんでした・・。
そして念願のドグラマンションですよーっ!!やったー!
頑張って戦闘シーン書きます・・。気力だ、気力・・!
次回はあるキャラが壊れますんで気をつけてくださいね(笑)
誰とは言いませんが、まぁ・・丁度今、アニメで活躍してます・・かね?(爆笑)
2005.9.12
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