第13話『残したもの』
―――・・何も、何も考えたくなかった。
満月はぼーっとベッドに寝転がりながら天井を眺めていた。
あの後どうやって家まで帰ってきたのかよく覚えてない。
途中で現れた犬丸さんに無我夢中でしがみついちゃって、そのまま泣き続けて・・。
私、これからどうしたら良いの・・・?
『・・落ち着きましたか、満月さん・・』
『・・・すいません。』
『いえ、良いんですよ』
犬丸は満月を安心させるように笑顔でいった。その笑顔が翡翠と被って見えて咄嗟に顔を下に向ける。
『・・・なんとなく、事情は分かりましたよ。』
『・・・・』
『翡翠さんが、居なくなったのでしょう?』
改めて言われるその事実にしがみついていた手に力がこもる。皺が出来そうなほど犬丸の服を握り締めた。
『貴女はこれからどうするんですか?』
『どう・・って』
『暫くしたらまた、次の神候補が満月さんの元に訪れます』
『!』
満月は目を見開いて犬丸を見つめた。その目が言わんとしていることは分かる。犬丸は目を逸らす事無くじっと見つめて言った。
『・・満月さんが戸惑うのも無理ないです。今さっきでの、出来事なんでしょう・・?だから直ぐに決める必要はありません。
バトルを止めても良いし、このまま続けても良い。ただ、これだけは忘れないで下さい』
『翡翠さんが貴女に残した”孤高の戦姫”という名を――――』
「・・・っ!」
ぎゅっと目を瞑った。視界が暗くなる。そしてその暗闇に浮かび上がるのは昨日まで一緒だった翡翠。
翡翠は、私に何をして欲しいの・・?
このままバトルを続ける事が貴方の為になるの・・・?
分からない。分からないよ・・・。
コンコン
満月の思考を遮断したのは部屋の扉をノックする音だった。ゆっくりと間をあけた後、起き上がる。
満月ー。と自分の名を呼ぶ母だった。
「はい?」
「満月?起きてるの?森あいちゃんって子から電話よ?」
「・・あいちゃん?」
以前、仲良くなった青い髪の女の子が脳裏を掠めた。
何事だろう・・・?
待たせるのも悪いと思い、急いで部屋から出て電話をとりにいく。すっかり気分が沈んでいた満月だが、森に心配させないようにといつもの自分を振舞った。
「もしもし?」
『あ、満月ちゃん!?た、大変なの・・!』
「どうかしたの?あいちゃん・・」
『さ、佐野が・・!植木が・・ってどれから話したら良いのぉぉ〜!!?』
「お、落ち着いて。あいちゃん!・・・そうだ、今日そっちへ行くよ。直接の方が良いでしょ?」
『そうしてくれると本当に助かるっ!あ、じゃあ。今日は私の家に泊まりにきなよ!』
「え、良いの?」
『うん、全然っ!』
元気そうな森の声を聞いて自然と満月も笑った。
・・不思議。あいちゃんの声聞くだけで凄い元気がでてきた・・・。
やっぱり、友達って良いもんだな・・。
『じゃあ、駅で待ち合わせね!迎えに行くから!』
「ありがとう!じゃあ、また後でね」
『うんっ。ばいばい!』
受話器を元に戻して満月はまた部屋へと向かった。
リュックに泊まりに行く準備をする為である。そこで鉛筆が目に留まり動かす手を止めてしまった。
・・私にはまだ能力が残ってた・・・。
それは・・直前で翡翠が、私を庇ってくれたから。
満月はぎゅっと目を瞑ったあと、バッと鉛筆をとり、リュックに突っ込んだ。
翡翠が残してくれたこの能力。
ただ、それを置いていきたくないだけ。
ただ、それだけ――――。
「お母さん。ちょっと友達の所に泊まりに行ってくるね」
「あら、そうなの?気をつけて行ってらっしゃいね」
「うん」
今日行ったとしてもきっと明日には帰って来れないだろう。そう思っていた。
満月の中での何かがそう訴えていたのだ。
・・さっき、あいちゃんが言ってた植木君と清一郎の事・・。
きっとバトルに関係してるから・・だから、よね。
満月は嫌な予感を感じながら、待ち合わせの駅へと向かうため家を出た。
そして、家を出てすぐの事だ。
「あ」
「・・満月さん」
昨日はお世話になった犬丸と会った。
昨日の今日で顔をあわせるのが気恥ずかしい。
「・・昨日は有難うございました」
「いえ。元気そうでなによりです」
そう、にこりと笑った犬丸の表情に何か違和感を感じた。
何だろう・・・。犬丸さん、無理して笑ってる・・・?
「ところで、満月さんはお出かけですか?」
「はい・・。友達の所に泊まりに行くんです・・」
「・・そう、ですか・・・」
「犬丸さんは?何処かに行かれるんですか?」
「・・・・・」
そこで黙り込んでしまった。何か不味い事でも言っただろうか、と不安になっているとぽつりと犬丸は呟いた。
「僕は、これから植木君の元へ行くんです」
「――!!」
『さ、佐野が・・!植木が・・ってどれから話したら良いのぉぉ〜!!?』
先ほどのあいちゃんの言葉が浮かんだ。
ひょっとして、犬丸さんもあいちゃんの言っていた事に関係するのかな・・。
「ただ、植木君の居場所が分からなくて今から森さんの所に行くんです」
「・・え?犬丸さんも・・?」
「・・?満月さんも行くんですか?」
二人はお互いの顔を見合った。そして、二人して笑った。
なんだ、目的地は一緒・・。だったら・・・
「一緒に行きませんか?犬丸さん」
「はい。喜んで」
その時笑った満月の顔を見て犬丸はほっとしていた。
・・今の満月さんなら、大丈夫そう・・ですね。
そして、満月も先ほどの犬丸の笑顔には違和感が無くなっていたのを感じてほっとしていた。
やっぱり、私の勘違いだったのかな。犬丸さん、普通だし・・。
だが、実際には2人とも顔は明るい方では無かった。
頭の中は自分の事でいっぱいで、だけどお互いにお互いを気遣っていた。
そのせいで相手の暗い沈んだ部分は見つけることは出来なかったのだ・・。
続
13話にてだいたい7巻らへんですね。早いものです・・・。
暗いのは書きにくいので早く満月さんには元気になってもらいます!それはあいちゃんの元気パワーで頑張って下さい(笑)
やっと佐野君も出てきそうですし、これからが大変です・・。
次は久々のあいちゃん登場です!!
あいちゃん、可愛いです・・(愛
でも、この夢でのあいちゃんは可愛いのか・・・な・・(汗
2005.9.7
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