第10話『恋のライバル』
―――…チュン、チュン…
「んー…?」
外から鳥の鳴き声が聞こえる。満月はそれをぼんやりとしてスッキリしない頭で聞いていた。
暫く布団の中でじっとしていたが、いつまでもこうしてても仕方が無い。と思い起き上がった。
――――が。
グキッ
「痛ぁぁっ!!!?」
腰が悲鳴をあげてまた布団へと逆戻りした。あまりの痛さにうっすらと涙が出る。
な、なんでこんなに痛いのー?!昨日なんかしたっけ…?
と、脳裏に浮かぶのは李崩の姿。
そうだ。昨日蹴り技をとことん叩き込んでくれたんだ…。
心の中で師匠!有難う!!と叫んでもう1度起き上がろうと試みる。今度は上手く腕を使いなんとか起きる事が出来た。
「うーん。辛い…辛すぎる…。動くたびに腰が…あいたたっ。こりゃ、今日は何も出来ないなー」
はぁ、と溜め息を吐いて着替えをしようとクローゼットを開いた。
着替えが終わりリビングに行くと母が優雅に紅茶を飲んでいた。部屋から来た満月に気づいた母はにこりと笑う
「おはよう、満月」
「おはようー」
「あら?どうしたの、そんなに腰を擦って…」
「昨日ちょっと、ね…。あはは…」
満月は会話をしながら救急箱から湿布をとりだす。それを貼ると少し痛みが和らいだようだった。それにほっと一息をつく。
そこで今日は翡翠のところに遊びに行く予定だった事を思い出し慌てて準備をする。
「あら、出かけるの?」
「うんっ。ちょっとね!」
「そう。気をつけてねー」
「はーい」
鞄を手にばたばたと家を出て行く満月。それを紅茶を啜りながら見送る母。
「……あの子も、春、ねぇ…」
何かとんでもない勘違いをする母であった。
満月はいつもよりゆっくりとしたペースで歩いて翡翠の家へと向かっていた。
なんだかんだ言ってもやはり痛いものは痛いのである。
「う゛ー…痛い。腰が…あいたた」
そんな時腰を少し擦りながら歩いている満月を佐野は見つけた。満月は気づいていないのでそーっと近づく。
そして大きな声と共に満月の肩を軽く叩いた。
「よっ、満月!」
バシンッ
「痛ぁぁぁっい!!!」
軽く叩いただけなのにそのまま地面に突っ伏す勢いで倒れた満月に唖然とする。
な、なんや…?そんなに強く叩いたかいな…?
満月はというと突然後ろから叩かれた事で肩から腰に振動が伝わりなんともいえない絶妙な痛みがきたのである。
振り向いて思わずキッと睨む。
「い、いきなり不意打ちなんて卑怯よぉ!」
「(不意打ち?卑怯?)わ、悪い。そんなに驚くとは思ってなかったんや」
「いたた…もぉ、良いよ…。それより、なんで清一郎が居るの?」
壁を頼りに立ち上がった。そしてここに居る幼馴染の佐野に首を傾げる。佐野は手元の桶を見せる。
「ん?銭湯に行く予定やったんや」
「あぁ…そう。」
「満月は何処行く予定やったん?」
「えっ!?いや、その…友人の家に…」
あははは、と乾いた笑みを浮かべる満月を訝しむ。○は表情を強張らせそそくさと佐野の前から去ろうとした。
が、それは佐野に右腕を捕まえられて行く事は叶わなかった。
「…その友人ってまさか『翡翠』っちゅうヤツやないやろうな?」
「え?!なんで、それを……あ。」
「……ほぅ。やっぱりな…」
あくまで笑顔な佐野だからこそ怖かった。満月はどうやったらこの佐野から逃げられるかを考えるが全然浮かばなかった。
ぎゅっと左手で持っていた桶に力をこめたあと、佐野はとんでもない事を言った。
「予定変更や。オレも行こうやないの。その翡翠っちゅうヤツん家に」
「えぇっ!!?何でそうなるのー!!!?」
「さ。そうと決まればさっさと行くでー」
「ま、待ってよ!無視ですか!?」
予想外の展開に満月は目を白黒させた。
こ、こんなのってアリ―――――!!?
哀れ満月…佐野に見つかった時点で逃げられないのだ…(合掌)
ピンポーン
その呼び出し音に部屋の主は玄関へ向かった。きっと満月が来たのだろう。そう思いガチャリと扉を開ける翡翠だったが、目の前に居る人物を見て唖然としてしまった。
そう。予想していた満月ではなく、その幼馴染の佐野が居たからだ
「あ、あの…?」
「ほう…兄ちゃんが翡翠かい?」
「え、えぇ…まぁ…」
じーっと見てくる佐野に翡翠は苦笑を浮かべる。
……なんねん。普通にカッコええやないの…!!(もっと変な奴を想像していた
「丁度ええわ。この際だから言っ」
「あぁーっと!!翡翠、こんにちは!(何最初っから喧嘩売ろうとしてるんだよ、コイツは!」
満月は佐野を押し退けて翡翠の前に立った。満月によって横に飛ばされた佐野をちらっと見たあと、視線を戻した。
「満月…?あの、彼は…?」
「いいのいいの!気にしなければ世界は平和!お邪魔しまーす!」
「(良いのかな…?)ど、どうぞ…。佐野君もどうぞ」
満月に突き飛ばされた佐野は何とか起き上がり翡翠の部屋に入ることにした。
「くそぅ…諦めへんで……」
とりあえず3人は翡翠の家の中へと入るがお互いに黙り込んだままだった。
清一郎は翡翠を睨みつけてるし(何故?)翡翠は始終笑顔だし。私はどうしたら良いのか分からなくてずっと黙ったままだし…。
あぁっ!!どうしてこうなっちゃったの!!?
って、そうだよ。清一郎が翡翠の事知ってたからこうなったんだよ!!
この居づらい沈黙を何とかするべく満月は佐野に話しかけた。
「…あの、何で清一郎は翡翠の事知ってるわけ?」
「そんなん当然やろ。ワンコに聞いたからや」
「ワンコ??」
満月は首を傾げる。どうやら翡翠は分かったらしく笑っていた。
「オレの担当の神候補や」
「あっ!犬丸さん!」
「なんや?知っとったんか?」
「うん。一昨日会ったの」
脳裏に浮かぶのは大きな帽子をかぶった優しい人。満月はにこにこと笑う。
佐野は犬丸と満月に面識があったことに驚いていた。
あいつも侮れへんなぁ…。
次から次へと現れる敵に(ちょっと違う)佐野は頭を悩ませた。
「なんか優しそうな人だったなぁ…」
「それよりもな、満月」
ぽわ〜んとしている満月をこちらに戻すべく佐野は満月に目を合わせて言った。だが、その目は非難するような目だった。満月はごくりと呑み込む。
「なんで、オレに能力者やった事言ってくれへんのや?」
ひょえぇぇぇっ!!!!?
ば、バレてるっ!!!って、翡翠の事を聞いたらそりゃ分かるよねっ!
ダラダラと汗が流れてくる。それでもじとーっと見てくる佐野が怖い。怖いよ、兄ちゃん!!(泣
「え、えっと…それは…」
「僕が説明しましょう」
「え?」
それまで黙っていた翡翠が今までとは違う真剣な表情で佐野を見ていた。2人の視線を真っ向から受けてまたにこりと笑う。
「満月は佐野君に心配をかけたくなかったんですよ。満月がバトルに出てる事を知ったらきっと佐野君は自分の事より満月の事を優先するんじゃないか。このバトルは命を落としてしまうような危険性があるバトル。
それなのに満月の事ばかり気にしてたら佐野君は自分の事を疎かにしてしまう。そう思ったんですよ、ねぇ?満月」
「…うん。そんな感じ…」
「満月……」
そうやったんか…(じーん
佐野は満月が自分の事を思っていてくれた事に感動して抱きしめようとした。……が。
「だ、だって。清一郎にとって私は妹みたいなもんでしょ?今まで助けてくれてたもん。きっと今回だって助けようとするって分かってたから……だから…」
「……(妹ぉぉっ!!!?」
満月の一言に石のように固まった。だが、一生懸命にこの際だから、と思っていることを全部ぶつける満月には佐野の事には全然気づいていなかった。
「私だって清一郎の事お兄ちゃんみたいに頼りにしてるよ!うん!!」
「(お、お兄ちゃん……)」
「だからこそ、そんな清一郎を守ってあげたいと思ったの!それは兄妹としては当然でしょ!?」
「(け、兄妹……)」
満月……。
オレは満月にただの頼りになる兄としか見られてなかったんかぁぁぁっ!!!?(泣
合掌
「あ、紅茶きれちゃった…。私ちょっと淹れてくるね」
「はい、お願いしますね」
「うんっ」
ぱたぱたと台所へ向かう満月を見送った後佐野に視線を移した。よほど満月からの言葉にきたのかぐったりとして座り込んでいる。
「…佐野君。これからも兄として満月を見守ってあげて下さいね」
「(ぴくっ)…なんやとぉ??!」
「正直結構心配してたんですよ。佐野君が手を出さないか…って。でも、満月を見る限り大丈夫そうですね。相手にされて無いみたいですし(笑顔」
「……お、お前…っ!」
猫被ってたんかいっ!!!!
おや、何の事でしょう?(にっこり
笑顔なのは変わりないのだが、雰囲気というか自分と満月の接し方の微妙な違いに佐野は口を引き攣らせた。
そんな佐野には目もくれず残りの紅茶を飲み干す。
「…まぁ、お兄ちゃんっていうポジションはなかなかオイシイですけどねぇ…(溜め息」
「何言ってんねんっ!!!」
「大丈夫ですよ。満月は僕に任せてくれればv」
「任せられるか、アホォッ!!こんな猫かぶったやつの所なんかに満月を置けるかぁっ!」
「…はぁ。その辺がお兄さんっていうんですよ?」
過保護すぎるのもどうかと思いますけど?
哀れみの目で見てくる翡翠にとうとう佐野の忍耐袋がブチ切れた。ガシャンッと思い切りカップを皿の上に置いて翡翠を睨んだ。それを笑顔でかわす(怖っ
「いやぁ、佐野君は面白いですねー」
「おもろうないわっ!!」
「でもね、佐野君…」
「……?」
「満月は強いですよ……心が、ね」
「!!」
翡翠は佐野に目を合わせて、ゆっくりと言った。
先ほどとは違う空気…背中がひんやりとするような嫌な感じがした。意味も無く緊張してしまう。
「きっと君も知らないでしょうね、今の満月を」
「なっ…!」
「僕も分からない。それは彼女自身にしか分からない事なんです」
「……!」
確かに。自分は昔の『能力を手にする前』の満月しか知らない。
戦っている所など見たことも無いし、何故このバトルに参加した事かも分からない。
今の満月をあまり知らないのだ
微妙な沈黙が2人を包む。
そこに話の元となっていた満月が戻ってくる。
「あ、あれ…?どうしたの、2人とも…(この微妙な雰囲気は一体…」
「気にしないで下さい、満月。ちょっとした男同士の話ですよ」
「ふーん…?」
「それよりも紅茶、淹れてくれますか?」
「うん!良いよ」
淹れたての紅茶を翡翠のカップに注いだ。
それをじっと見ながら佐野はふと笑った。そして何か思い切ったような口振りで言った。
「…翡翠。オレがいない時は頼んだで」
「! えぇ。任せてください」
その言葉に安心したのかニッと笑ったあと、席をたつ。
それを不思議そうな顔で満月は見た。
「え?清一郎帰るの?」
「あぁ。話も終わったしな」
「話…?」
「ほな、お邪魔したわ」
「え、え!?ちょっ…」
桶を持って玄関に向かう佐野に慌てて満月も追いかけるが、追いついた時にはパタン、と扉が閉められた後だった。
満月は呆然とそれを見ている。
「…何があったの?」
それは翡翠と佐野の2人だけの秘密である。
佐野は予定通りの銭湯へと向かう道を歩く。その途中に先ほど真剣な表情で言った翡翠を思い出していた。
あの時の顔、ワンコにそっくりやったな―――。
『死ぬかもしれない人を目の前にして、見過ごすコトなんてできない!!たとえどんな理由があろうとも!!!』
昔、そう言った犬丸の顔が先ほどの翡翠と被るのが分かった。
思い出して顔を緩めるがすぐさま表情が暗くなる。
ワンコ……助けてやるからな……
その時の佐野には前のような表情は無かった。
スマンな、満月………。
続
後半近くまでギャグで。最後はちょっとシリアスめでした。
この後ご存知の通り、佐野君は十団へと入ります。やっと、やっと原作に近づいて…きた?
あと少しでまたあいちゃんと会えます…!そして鈴子ちゃんも登場!!
そして毎度恒例になったうえき側ですが(笑)ドンを倒したあたり…ですかね。
というかその辺の時間がよく分からないのですが(死)夏休み…ですかー!?(原作読め
結構今浮上した疑惑なんですが、ひょっとして植木君が入る前から佐野君、十団に入ってました…?
だったらごめんなさいっ!!あぁ、もうかなり時間ずれちゃってごめんなさいっ!
なんだかんだ言ってライバルの紫水は出ませんでした(笑
次こそ出さないと話が…;
2005.9.03
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