第14話『植木と佐野とロベルト十団』
「おーい、満月ちゃーん!」
「あいちゃーん!!」
こちらに向かって手を振る女の子の姿を確認すると、すぐにそれがあいちゃんだという事が分かった。
満月も同様に手を振り、そして走って森に抱きついた
「久しぶりー!」
「満月ちゃんに会えて嬉しい・・!」
ぎゅぅと再会の抱擁を交わす2人をやや離れた所で犬丸は見ていた。
表情はとても穏やかなものだったが、心情は全然穏やかなものでは無かった。
そして、そんな犬丸に森が気づく。
「あ、犬丸・・!」
「森さん。すぐにでも植木君の場所を教え」
「もーっ!!何で一緒に来ちゃうのよー!!」
「・・え」
森は予定外の犬丸の登場に頭を掻いた。それを不思議そうに見守るのは犬丸と満月だ。
深く息を吐き出すと森は満月に目を合わせる。
「・・今日、満月ちゃんに電話したのも犬丸が関係してるのよね・・。本当は後でゆっくり言うつもりだったんだけど、犬丸が来ちゃったなら仕方が無い!」
たっぷりと間をおき、森は言った。
「実は、満月ちゃんが居ない間に植木と佐野がロベルト十団に入っちゃったの・・」
「・・!!?」
清一郎と植木君が・・・!!!?
目を見開いて満月は森を見た。犬丸はそれを聞き奥歯を噛み締める。
ロベルト十団の事は噂で聞いていた。
ロベルト・ハイドンに忠誠を誓った10人の強大な能力者集団。
それがロベルト十団・・・!!!
「で、でも・・なんで・・・」
「植木が十団に入ったのはその十団を潰すためよ」
「じ、じゃあ・・!」
「うん。植木はロベルトなんかに忠誠は誓わない。
・・誓う筈が無いもん」
一瞬、暗くなった森の表情を満月は見逃さなかった。
きっと植木君とあいちゃんに何か大きな事でもあったのだろう。
それが何なのか気になったが誰でも聞かれたくない事はある。
そう、今の私のように――――。
だが、森は違った。満月には全てを知っていて欲しい。そう思ったのだろう。コバセンが地獄に落ちた日の事を思い出しながら、全てを話した。
「・・・実はね、植木の神候補・・コバセンっていうんだけど。
コバセン、植木の事を庇って地獄に落ちたの」
「―――っ」
地獄に、落ちた・・・?
満月は昨日の出来事がフラッシュバックして目をぎゅっと瞑った。体が震えるのが分かる。
それを押さえ込むように両腕で体を抱きしめるようにした。
・・それじゃあ、植木君も私と同じ思いをした・・の?
で、でも。それなら、何で植木君はまたバトルなんかに・・・。
犬丸はそんな満月を見て肩に手を置いた。その手はとても温かくて、安心が出来て、震えが治まっていくのが分かった。
・・・犬丸さん・・・。
「コバセンを地獄に落とさせたのはロベルトなの。だから、植木がロベルトに忠誠を誓う筈がない!!」
「・・・そう、だね。」
植木君の立場が今の私だったら絶対に忠誠なんて誓わない。
誓える筈が無いのだ。傍にいてくれていた人を地獄に落とす相手などに。むしろ、憎くて、憎くて、仕方がないのだ。
「だから、今そのロベルトを倒そうと植木は十団にいる。・・・で、」
「佐野くん、ですね・・」
森の言葉を受け持ち犬丸は言った。
その言葉に森の表情が強張るのが分かる。
「・・佐野くんが十団に入った理由は分かりません。けど、きっと何か理由がある筈なんです。彼がロベルト・ハイドンになど、力を貸すような男じゃない!!」
私の肩に置かれている手とは反対の手が力強く握られている事に気づいた。清一郎がロベルト十団に入ったことを信じたくないのだろう。
やっぱり、先ほど笑った時に感じたあの違和感はこれだったんだ・・。
心からというよりも心配させないよう、無理やりにといった感じで笑っていた犬丸の笑顔を思い出していた。
・・・これが原因だったんだ。気のせいなんかじゃ無かった・・。
「それで、僕は植木くんに力を貸してもらおうと来たんです・・」
「で、私が満月ちゃんを呼んだ理由はこれもあるの。満月ちゃんは佐野の幼馴染でしょ?だから満月ちゃんの言葉なら聞いてくれると思って・・。」
そうだったんだ・・・。
満月は俯いて自分の足元を眺めた。
私1人だけが辛かった訳じゃないんだ。
あいちゃんだって、犬丸さんだって、ずっとずっと自分1人で葛藤してきたんだ。
辛い思いをしているのは1人じゃない。
悩み苦しんでいるのは1人じゃないんだ。
・・・・・・・・・
・・・・・・・・決めた。
翡翠・・・
私は前、翡翠に言ったよね。
植木君のような人になりたい・・って。
今がその、選択の時だと思うの―――。
ここでバトルというものから逃げ出して普通の中学生に戻るか・・・。
翡翠が残してくれた能力・・・そして”孤高の戦姫”という名。これを背負っていくか・・。
翡翠が命をはって守ってくれたこの能力だもの。
私は、普通の中学生に戻る気なんて、無いよ・・・。
貴方が残してくれた名に恥じないよう精一杯胸を張って戦っていくよ・・・。
だからね、翡翠。
私の事、最後まで見守っていてね・・・・。
「・・あいちゃん」
「何?」
「一つ、聞いても良いかな・・」
「ん?」
「植木君は、自分の神候補が居なくなった時、どうだった?」
「―――!!」
犬丸は目を見開いて満月を見た。だが、満月は犬丸に視線を移す訳でもなくじっと森を見ていた。
森の言葉を待っている。その時の植木がどうだったのか・・。それを知りたくて。
・・・満月さん。
森はうーん、と唸った後笑顔で言った。
「初めはね、凄い悩んでたと思うよ」
「・・・・」
「コバセンが居なくなって、もうバトルにも出なくても良いと思って。普通の毎日に戻れるって私は思った。けど、植木は違ったの」
コバセンの為に、今は戦っている。
”空白の才”ってやつを悪に渡らないように・・。
「きっと、あいつの事だからそう思ってるに違いないわよ」
あいちゃんはニッと笑って答えてくれた。
・・そっか。うん。植木君らしいや・・・。
私は植木君のような人になりたい。だったら・・・
彼に力を貸すのが当たり前・・よね!!
「あいちゃん!犬丸さん!」
「「!!?」」
「行こう!!植木君のところに!」
その時の満月の顔は迷いを断ち切った、強く、温かい綺麗な顔をしていた。
揺るぎ無い自信に満ち溢れたような表情に森や犬丸はつられるように笑った。
「はいっ!」
「うんっ!」
とりあえず、犬丸と満月の事も考え今日は一日休む事にして、明日出発する事にした。
決意を新たに、覚悟を決めた満月は
以前とは違う大きな成長を遂げ、
再びバトルの戦場へと起つ―――――。
続
14話でした。
明るい満月さんに戻りましたよ・・!良かった!流石あいちゃんですねっ!そしてやーっとこ、原作に沿いそうです(汗
次は予定では鈴子お姉様が登場する予定です・・!(ガッツポーズ
14巻あたりで更に惚れ直しました、鈴子お姉様!(笑
きっと彼女がこの夢での最強キャラになることでしょう・・・。
2005.9.8
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