第7話『正義』
翌日の事だ――。
「よっ!植木。」
「む?」
声がした方を見上げる。そこにはトラックの上に座る佐野が居た。森はその登場の仕方にぎょっとした。
「お!その分だとケガの具合も良さそうやな。」
「あいちゃーん!!」
「…え?」
今度は森が呼ばれたほうに顔を向けた。すると、助手席からバタンっとドアを閉めこちらに向かってくる人物。
昨日お友達になった満月が手を振っていた。森も嬉しくなって手を振って駆け寄った。
「満月ちゃんっ!!」
「会えて良かったー!」
「私もー!」
「引っ越し?」
「ああ。親父の都合でなぁ、大阪に戻ることになったんや。満月も実家は向こうやさかい、一緒に帰るんや」
「えー!!?帰っちゃうのー!?」
それを聞いた森はがっかりした。満月はそんな森を見てぎゅっと抱きしめた。
「か、可愛いよっ!(萌)あいちゃん!!」
「わ、わわっ!!?」
「帰りたくなくなっちゃうよー!」
「それはあかんで。」
ズビシっと佐野はツッコんだ。それに満月は不貞腐れた表情を浮かべる。幼馴染というよりは兄妹って感じだ。
そんな2人についつい噴出してしまう森。
「植木。次会うまでにオレももうちょいマシに戦えるようになっとくわ。そしたらあらためて勝負や!!」
そして佐野はまだ森とじゃれ合っている満月に声をかける。
いつ見ても満月の可愛いもの好きには呆れるわ…。
「うぅっ…。あいちゃん。手紙書くからねっ。」
「うん!楽しみに待ってるよ!」
「植木君も!また絶対・・会えるからその時まで元気でねっ!」
「? おぅ。」
満月は2人に手を振ったあと、また助手席へと戻った。暫くするとトラックは動き出す。
「ほなさいなら。」
「さいなら」
これが植木と佐野の別れだった。次会うときはお互い望んでもいない展開になるとは知らずに―――。
「なぁ、満月」
「ん?」
「植木はええ奴やったなぁ…」
「うん!そうだね」
新たな能力者、そして友達が出来た佐野と満月にとって植木という人物は大切な存在となる。
まだまだ”バトル”は始まったばかりだ。そう思うとこれから出会うであろう能力者の事を考えるとドキドキしてきた。
よーしっ!!今日のこと翡翠に報告だーっ!(ガッツポーズ<え?)
「ほな、また明日な」
「うん、ばいばいっ!」
大阪に戻ってくると満月と佐野は別れた。佐野は家へ、満月は翡翠の家へと向かう。家と逆方向に行く満月に首を傾げたが寄る所があるのだろう、と思い特に気にしなかった。
「佐野くん」
「おお!?」
歩いていると横から聞こえた声に驚く。気づいたときには自分の近くにいる犬丸にいつも驚かされてばかりだ。
「さっきの子…神崎満月さんは佐野くんの幼馴染なんですよね?」
「ん?あぁ、そうやで。なんで知っとるんや?」
そういえば、あの神候補も満月の事を知っていたな…と思い出す。満月は一般人のはず。なのにどうしてこうも”バトル”に関係ある者が知っているのか…。不思議で仕方が無かった。
犬丸は顔に冷や汗をかいてゆっくりと佐野に告げる。
「彼女、神崎満月は今神候補の間で評判になっている”能力者”です―――」
「なんやとお!!?」
上擦った声がでた。満月が能力者だという事に酷く動揺する。しかしすぐさま否定した。
「あ、アホな事言うなや。ワンコ!満月が能力者なわけ」
「『孤高の戦姫』。今や彼女は有名な能力者ですよ」
「………!?」
まさか、満月が能力者やったなんて―――。
だが、考えてみれば全てに合点がいくのも確かだった。平の神候補、ラファティが 満月の事を知っていて始末しようとした事。
そして普通なら考えられない”能力”の事について、好奇心旺盛な満月が何一つ聞いてこない事。
それは満月にとって聞く必要がなかったということ。つまり最初から知っていたから聞いてこなかった!?
「そうかい…。それなら全てに合点がいくわ」
「はい。そして満月さんの神候補は僕の知り合いでして…」
「?」
「彼が佐野くんがバトルに参加した事を言ったらしくてですね…(溜め息」
「な、なんやとお!!?」
2度目の驚きに佐野はもう唖然とした。
じゃ、じゃあ、満月はオレの事を能力者として知っとったっちゅうんか!!?
犬丸は知り合いの神候補の顔を思い浮かべてなんとも言いがたい微妙な表情を浮かべる。
「翡翠さんは満月さんの事大事に思ってますから危険な事にはならないと思いますし、大丈夫ですよ」
「……大事?」
「ええ。そりゃもう、先日会った時なんて満月さんの事を延々と聞かされ…(はっ!!」
隣からブワッと広がりつつある黒いオーラを感じ取ってその場に凍りつく。頭の中で警急信号が激しく点滅している。
「ほぉー。へぇ−。ふーん(あくまで笑顔)。ワンコ、そいつの名はなんちゅうんや?」
「……ひ、翡翠さんです(ガクガクブルブル」
「そうかそうか。翡翠っちゅうんか。」
ふふっ、と笑いながら歩く佐野を見て犬丸は心に誓った。
もう、佐野くんの前では翡翠さんの話をしないでおこう…!!!
賢明な判断だ。
その頃満月はというと。
「ひーすーいー」
「? どうしたんですか、満月?」
翡翠のすむアパートで紅茶を飲みながらのほほんとしていた。翡翠は満月の話に相槌を笑顔でうっている。
「それがね!その植木君が凄いのよー!能力の応用ってやつをやってね、相性最悪なのに炎使いに勝ったんだよー!」
「へぇ、そりゃ凄いですねー」
「うんっ。あ、それでね。私にもその能力の応用って出来る…んだよね?」
カタッとカップを皿の上に置いて満月は翡翠の顔を見た。翡翠はいつも通り笑顔のままこくりと頷く。
「そうですね。満月にも能力の応用が出来ますよ?それは能力者の発想次第。でも、僕は能力の応用も大切ですが 満月には攻撃の繋ぎを覚えて欲しいと思ってます。」
「攻撃の繋ぎ?」
「はい。満月は能力のみを強くするのではなく、”能力”と”才”。この2つをバランス良く使えるようになって欲しいのです。
能力だけならより強い能力を選んだ者が強いに決まっている。しかし、このバトルではそれだけじゃ駄目なんですよ。」
「満月…このバトルは攻撃に工夫をしたものが勝利を掴むんですよ」
「…!!」
翡翠は伝えたい事を伝え終わったのか、一息つくと飲み終えて空になったカップを流し台へと持っていく。
満月はその後姿をぼーっと見ていた。
頭の中に先ほどの翡翠の言葉がぐるぐると回っている。
攻撃の工夫……
”能力”と”才”の使い分け……
「翡翠」
「何でしょう?」
「ちょっと私、修行してくる」
「…え!?」
その発言に驚き翡翠は思わず振り返って満月を見た。だが、満月は翡翠を見ず床に散らばっている鉛筆たちを眺めていた。
「私、植木君みたいな人になりたい」
「!」
「何の見返りも無く他人のためになら自らを投げ出せるような…そんな素敵な人になりたい!」
「…満月」
翡翠は満月のその言葉を聞いて笑った。
あぁ、小林さん…。
ここにも”正義”を持った子がいましたよ。
「だ、だからねっ。私…!」
「満月」
「!」
「満月が思ったとおりに、好きなように、その能力を活用しなさい」
その時の翡翠はとても綺麗な笑顔で。一瞬言葉を忘れてしまった。
吸い寄せられるような不思議な感覚。目が離せない…。
「満月なら、なれますよ。
植木君のような”正義”を持った人間に――――」
満月はその言葉にぱぁっと表情を明るくさせて満面の笑みで頷いた。それを満足そうに翡翠も見た。
続
えーと、まず初めにごめんなさい(土下座
佐野君がほんのりブラックになってしまいました…!!!
ついつい出来心と言いますか…!あぁ、ぶっちゃっけ黒佐野好きです!(爆
次くらいに満月さんが自分の能力をあげるため頑張ります。そして今度こそオリジナルに…!
やはり植木君に染められてしまいました(笑
出会った人は染められるみたいなんでね。染められちゃったよ、満月さん…。
2005.8.29
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