第11話『孤高の戦姫』
「こ、これは…っ!!!」
佐野が帰ってすぐの事だ。満月はごくりと喉をならし手元を見た。辺りには緊迫した空気が流れている。
どくん、どくん―――。
「つ、ついに…ついに……」
出来た―――――っ!!!!!
先ほどとは打って変わり大はしゃぎする。それを隣に居た翡翠は苦笑して見た。 満月が騒いでいる理由。それは…
手元にある鉛筆だった。
ただの鉛筆ではない。5本の鉛筆が一つに繋がっているのだ。しかしよく見ると1本1本セロハンテープで繋げられているが分かる。
それを満月は嬉々として見ていた。
「ふっふっふ。聞いて驚くが良い!私が閃いた”能力の応用”!!」
「能力の応用?」
「そうよ、翡翠。まぁ、見てて!”鉛筆をナイフに変える能力”!」
長い1本の鉛筆がたちまちナイフへと変化した。
しかしただ変化しただけでは無かった。変化した鉛筆がレイピアのように変化したのである。
それを見て翡翠は感嘆の声をあげた
「す、凄いじゃないですかっ!満月!!」
「へっへ〜ん。そうでしょっ!ここまでくるともうナイフの様な気がしないけど、まぁ、気にしちゃそこでお仕舞いよね!v」
「そうですね。で、満月は使えるんですか?そのレイピア」
「無理に決まってるじゃないv」
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・はい?
「つい最近まで普通の中学3年生、しかも帰宅部の私がフェンシング部に入ってた訳じゃあるまいし使える訳ないよー。やだなぁ、翡翠はvあはははっ!」
「・・・え、じゃあ・・これは・・?」
「うーん。どうしよう…」
「駄目じゃないですか、それじゃあぁぁっ!!!」
くわっと翡翠は叫んだ。満月はいつもと違う翡翠のキャラに呆然としてみた。
・・・いつからそんなキャラだっけ?
翡翠は盛大に溜め息をついて満月が先ほど変えたレイピアを持った。
「いいですか、満月。これはもうナイフじゃ無いですがそんな事は良いんです。
能力の応用が出来た。まず、それで整理しますよ。そして応用で出来たこのレイピアを使えないと意味無いのもお分かりですよね?」
「は、はい・・」
「だったらまず、これに慣れるべきです。慣れないと扱えないのは当然です」
「・・はーい」
翡翠の鬼・・・。なにもそこまで言う事無いのに・・・。
先ほどとは対極な程に落ち込んで翡翠から受け取ったレイピアを見る。
翡翠は眉間を寄せて辛そうな顔をして満月を見ていた。
「・・・満月には強くなってもらわないと困るんです・・。でないと、彼に勝つ事は到底不可能です。」
そう呟いた翡翠の顔は読み取れなかった。
そして余りに小さく呟いたので満月には聞こえていなかった。
「あ。もうこんな時間だ!」
「そうですね・・送りましょうか?」
「ううん。大丈夫だよっ!」
能力や今後の戦いについてすっかり話し込んでいて時間を忘れていた。外を見てみるともう真っ暗だ。
満月は鞄を持って立ち上がり玄関に向かう。それに続くよう翡翠も立ち満月を見送った。
「では、気をつけて帰って下さいね」
「はーい。あ、翡翠」
「何です?」
「清一郎と話してたのって何の話なの?」
満月よりも先に帰っていった佐野を思い出す。
なんだかんだ言いつつも満月を心配していた彼が
突然現れた僕に満月の事を頼む。と言ってくれた。
最初と最後の接し方の違いに思わず笑ってしまう。それを満月は怪訝そうに見る
「何笑ってるの?」
「いえ、先ほどの佐野君を思い出して・・・」
「! ねぇ。だから何の・・」
「秘密ですよ」
満月の頭に手をおき笑顔で言った。
それを見ると何も言えなくなる。・・・ずるい。
「僕と佐野君の約束ですからね。他言無用です。」
「・・ちぇっ。まぁ、いいや。じゃあ帰るね!」
「はい、気をつけて」
満月は手をふり家へと走って帰った。その後姿を眺める。
満月が見えなくなると翡翠は家へと入りソファへと座った。と、同時にモバイルが鳴り出した
驚いてすぐさま対戦相手を確認する。そしてそこに表示された人物を見て目を見開いた。
「そんな・・っ、もう来てしまったのか・・・・」
ぐっと歯を噛み締めた後、翡翠は慌てて満月の後を追った。
満月。彼とは、彼とは戦っていはいけません・・!
彼だけは・・・・!!!
「はぁー。今日もへろへろだよー」
満月は溜め息をつきながら帰路を歩いていた。
明日はのんびり寝ていよう・・・。このバトルに参加してから最近本当にゆっくりした日なんて無いしなぁ・・・。
それを考えるとまた溜め息が出そうになった。しかし今度のは抑える。さっさと家に帰ろう。そう思って家の公園の前を通った矢先である。
「おい」
「はい?」
公園の方から声が聞こえて思わず答えてしまった。ピタリと足を止め声が聞こえた方に振り向く。
するとそこには学ランを着た少年が立っていた。
「お前が『孤高の戦姫』?」
そう言って現れた少年は満月の前で不敵に笑った。満月は眉間に皺を寄せて聞き返す。
「孤高の戦姫?」
「あぁ。それがお前の事だろう?」
彼は不気味なほどの笑顔で笑った。その笑顔からは殺気が溢れんばかりにでている。 満月はゾッとして、退いた。
こいつ、尋常じゃない・・・!!
「人違いじゃないの?私、孤高の戦姫なんて言わ」
「そんな事ねぇよ。ただ自覚してないだけだ」
「え・・っ!!」
ピシッ
な・・・!!?
体が動かない・・・!!?
「俺の能力は”糸に意思を与える能力”」
「・・・意思!?」
「そう。つまり、今君を縛り付けているのは糸の意思でもあり、俺の意思でもある」
「・・!!」
そ、そんなのってアリですか――――!!!?
って事は、自分が思っていることを糸に念じれば自由に糸が動くって事じゃないのよぉ!!
反則!!それ絶対反則ですから―――っ!!!
「・・っ!」
「ちっ。結局俺の買い被りだった訳かよ。大した事ねぇじゃんか。期待して損したぜ、『孤高の戦姫』さん」
「(ぴくっ)」
「早くやられて気絶しちゃった方がラクだぜ?」
「・・・・煩いっ!」
満月は辛うじて動いた手首でポケットから鉛筆を取り出し、ナイフに変え糸を切った。
やっと体に自由が戻る。目の前でこちらを見ている少年にナイフを向けた。
「買い被りとか期待がどうとか、訳分かんない事言わないでよねっ!私は神崎満月。その『孤高の戦姫』ってやつじゃない!」
「・・神崎満月・・・ねぇ。じゃあやっぱり合ってんじゃん」
「はぁ?」
「両手にナイフを持ち、戦場を駆け回るその姿は時には従者のようであり、踊り子のような華麗な曲芸も魅せる。
現代のジャンヌダルク・・・それが『孤高の戦姫』」
「――!?」
って、めちゃくちゃな句だな、ソレぇぇっ!!!だ、誰だよっ!!こんなの考えたの!!
僕ですv(笑顔<翡翠
「その『孤高の戦姫』ってのが神崎満月だって聞いたんだ。神候補の間でも結構な噂だぜ」
「・・・・で、でも、でもでもっ。そ、それが私だとしてもですよ。うん。私、ぶっちゃけそこまで強くないからっ!!」
そ、そうよ!確かにコイツの言ってた戦い方は私と同じだけど(残念ながらねっ!<泣)そこまで言われる程強くない。
「ふーん。ま、でも戦えば分かるだろ?」
「えっ・・!」
「じゃあ、いくぜ?」
男は蜘蛛の巣のように糸を散りばめた。そして先ほどのように満月を捕らえるつもりなのだろう。
一斉にその糸は向かってくる。だが、それは満月を捕らえることは無かった。
「私にその技はもう効かないよ?」
片手に2本。両手合わせて4本のナイフを満月は握っている。そして下にはバラバラに切り落とされた糸たち。
それを見て男は感嘆の声をあげた。
「へぇ。なんだかんだ言ってもここまで残ってきた能力者。実力はあるって訳か・・・。だったら」
男は5本の糸を束ねて持ち、自分の前に突き出した。それを怪訝しく見る。
すると束ねた糸を地面に突き刺し、次にはカァァンッという金属のような音が出た。
「これでお前のナイフは効かない・・よな?」
「・・!」
「あまり時間を取りたくねぇ。早めに終わらせてもらうぜ・・!」
男は満月に糸を束ねた棒を振りかざして迫ってくる。このままではアレで気絶される・・!
満月は一か八かの賭けで先ほど試した”能力の応用”を使う事にした。
お願い、間に合って・・!!
棒が満月の頭に当たると思った瞬間
キィィィン―――!!
「はっ、はぁっ、はぁ」
「・・ちっ」
鉛筆をレイピアに変えて寸前で受け止めた。だが、力では負ける。満月はそのままの体勢で空いている相手の脇腹に蹴りかかる。
だが、それは相手が後ろに飛び退いた事により回避された。
相手が遠ざかった事を良い事に満月は素早くナイフを投げる。しかしそれも容易く避けられてしまう。
つ、強い・・・!
今まで戦ってきた誰よりも・・。
体勢を整えながら相手を見据える。しかし向こうは平然とした顔をしていた。こちらは息切れで辛いというのに・・。
「・・これで、終わりだ」
「えっ・・なっ!!?」
また体が動かない。しかしこれは先ほどとは全然違う。全く体が動かないのだ。
こ、これじゃあ・・・・!!
「・・レベル2」
「!?」
レベル2・・?それって一体・・・
「あああぁぁぁっ!!!」
満月は足の力を失い地面へと倒れた。何が起きたのか分からない。ただ、体に衝撃が走った。
そんな満月を見て男はニヤリと笑った。
「今の衝撃はその糸から出た衝撃波だ」
「しょ・・げきは・・?」
「能力で変えた物に新しい超能力が付く。それが”レベル2”だ」
「!!?」
能力で変えた物に新しい超能力が付く・・!?
そんな事って出来るの?・・でもアイツが今攻撃してきた技は確かに新しい超能力だ。
アイツの能力は”糸に意思を与える能力”。それで私の体を縛った。
そして”レベル2”――!
私の体を縛るという意思を持った糸から出た衝撃波。
確かに合点がいく―――ー!
「レベル2は神候補から直接教える事は禁じられてる。だから自分で気づかないと使えない」
「・・・・じゃあ、アンタのレベル2ってのは”意思を与えた糸から衝撃波をだす”って事・・?」
「・・お見事。まさか今のアレで見破るとはね」
男は満月に向かって手をかざす。
「だが、これで、終わりだ」
「―――っ!!」
あぁ・・・これで、私は終わるのかな・・・。
もっと色んな人に会いたかったな。
あと、翡翠になんて言ったら良いんだろう。
神にさせてあげられなくて、ごめんね――――。
自分にくる衝撃に備えて目を瞑り耐えようとした。
そして凄い爆発が起きた。
続
早くも11話目です。
そしてこんなに早くレベル2についてタネ明かしをしてしまって良かったんでしょうか・・・!!?
えー・・まだ名乗ってないのですが彼がオリキャラである紫水くんです(笑
本当は最初良いライバル!!昨日の敵は今日の友!的なノリだったんですがいつの間に悪キャラに変化してました・・。ま、良いかな・・?という感じで・・(あわわ
もうすぐドグラマンション突入です!!
やっとロベルト様様をかけるんですよ・・!と言っても彼のキャラがイマイチ掴めずどのようなキャラにしたら良いのか迷ってるんですが・・(笑
敵佐野もまた魅力的でしたし書くのが楽しみですよー!
2005.9.4
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