第8話『修行』
「うーーーん。と、言っても浮かばないよー!」
ベッドの上に散らばっている鉛筆たちと睨めっこをしてかれこれ1時間ほどたっていた。
じーーっと見ても相手は物。なんの反応もしめさない。満月はお手上げと、いうように後ろにそのまま倒れ込んだ。
「”能力の応用”って言ったってー。私の能力でどうやれば良いのよー」
植木君は”ゴミを木に変える能力”で、イメージをして栗の木を出していた。
清一郎は”手ぬぐいを鉄に変える能力”。きっと清一郎の事だ。とんでもない事を思いつくんだろうな、と思って更にへこんだ。
「もーっ!!”鉛筆をナイフに変える能力”なんて変えてお仕舞いじゃないのよーっ!」
バタバタと足を動かす。その反動でカラン、カランと音を立てて鉛筆が床に落下した。
暫くそのままだったがのっそりと起き上がる。
「…応用はとりあえず良いや。攻撃の繋ぎからいこうっと」
学校から帰ってきてそのままだったので制服のままだった。尚且つ先ほど寝転んでしまったのでスカートに皺が寄っている。
それを直しながら立ち上がり、転がった鉛筆を拾い集める。
「まず…は、庭で練習でもしようかな」
庭なら人目につかないよね…?
部屋を出ようとしたところで熊のぬいぐるみに目が留まった。それを少し見た後、熊のぬいぐるみも持っていった。
「よ…っし!」
庭にあった空きダンボールを積み上げて丁度良いくらい高さの所に熊のぬいぐるみを置いた。そして片手に鉛筆を持ち構える。
「…えいっ!」
ナイフを3本熊目掛けて投げる。それは目標通り熊の腹にぶすっと刺さる。じょじょに後ろに下がり距離を増やしていく。
それでも熊に命中するのは『命中の才』のおかげだろう。
「…うんっ!命中は大丈夫かな」
およそ熊から7,8m離れたところで満月は立ち止まる。ぼろぼろになった熊を地面に置き、次はダンボールの前に立ち止まる。
確か、『回し蹴りの才』を持ってたよね…。
じっとダンボールを見つめたあと、深く息を吸う。そして足を上げ力いっぱい上に蹴り飛ばした。
バゴォォッ――――!!!
もの凄い音がしたと共に上に上げられたダンボールは下に落ちてきた。それに目掛けて両手に構えたナイフをいっせいに投げる。
ドスッ、ドスッ、ドスッと次々と刺さる音がしてそのまま地面に落ちた。ありとあらゆる角度に刺されたナイフを見て満月は満足そうに笑った。
「今の良いかも…!蹴り上げた相手に重傷にならない程度にナイフを投げれば…!」
満月はそこで修行をやめる事にした。あまり長時間やっているとご近所さんに見られる可能性もある。
なんせ先ほどダンボールを蹴り上げた時のあの大きさの音だ。それにナイフを投げているのを見られたら変な目で見られかねない。
「うーん。修行出来る場所探さないとなぁー…。」
後片付けをしながら満月はそう思った。手を洗おうと家の中に入るとお母さんが帰ってきていた。
「あ、満月!丁度良いところに」
「ん?」
「ちょっと、砂糖がきれちゃってー。買ってきてくれる?」
「分かった。ちょっと待って」
バタバタと急いで手を洗い、熊のぬいぐるみを部屋に置いてくる。そして何かあった時のために鉛筆をポケットに忍び込ませる。
「じゃぁ、行ってきまーす」
「うん。早くねー」
満月は走って近くの店まで向かう。丁度今チャリがパンクしていて使えない。
早く直してもらわないとなぁ…。
まぁ、走るのは嫌いじゃないんだけどね
考え事をしながら走っていたので前を見ていなかった。確認もしないで曲がり角をまがると定番なパターンで向かえ側から来た人とぶつかってしまった。
「いたっ!?」
「うわっ?!」
満月は反動で尻餅をつく。相手は倒れはしなかった。が、満月が倒れ込んだのを見て慌てて手を差し出す。
「だ、大丈夫ですか?」
「いたたた…。あ、はい。大丈夫です。どうもすいません」
差し出された手を握り起こしてもらった。そこで初めて相手の顔を見る。目があった所で相手の――帽子をかぶった男性が
目を見開いた。
「あ、あの、まさか満月さん!?」
「え?は、はぁ…そうですが」
え、え??私この人とは初対面だよ…ね?
どうやら相手は私の事を知っているらしい。しかし満月には見覚えが無かった。
どうしたらよいのかわたわたとしている満月に帽子の男性ははっとする。
「あ、すいません…いきなり。僕は犬丸って言います。翡翠さんの知り合いです」
「翡翠の…!?あれ?って事は犬丸さんは神候補…ですか?」
「はい。ちなみに佐野くんの担当者です。」
「ええぇぇっ!!!?」
驚いた。まさか、こんな人が清一郎の神候補だなんて…!しかも翡翠と知り合い!?(翡翠と比べて凄い無垢だよ、おい!<失礼)
ぱくぱくと金魚のように口を開閉している満月を見て少し笑う。満月は笑われた事が恥ずかしく少しだけ頬を赤く染めた。
「え…っと、満月さんはどちらに?」
「ちょっとそこまで買い物です」
「そうだったんですか」
「犬丸さんは?」
「実は僕もなんですよ。今買ってきた所だったんです」
翡翠と似たような笑顔をして話す犬丸に本当に知り合いなんだな、と思った。
幼馴染の担当している神候補に出会った。いつか会いたいと思ってたから嬉しい。
「じゃあ、僕は行きますね」
「あ、はい!気をつけて。」
「…満月さんに会えて良かったです」
「私も!清一郎はとことんな温泉バカですけど凄い良いヤツなんで!仲良くしてやって下さいね!」
「! もちろん」
そう笑った犬丸さんは凄い綺麗な笑顔で○は言いようの無い安心感があった。そして犬丸と別れた。
なんか、凄い可愛い人だったな〜(雰囲気が!犬みたいな人!<あ)
良いなぁ、清一郎…。あ、でも翡翠も可愛いとこあるし好きだから良いんだけどねっ!!
犬丸の第一印象は好印象だった。満月は店に向かうためそのまま真っ直ぐ進む。と、懐かしい建物が見えてきた。
「あ、幼稚園だ…」
思わず立ち止まって建物を見上げた。昔から変わらない懐かしい幼稚園。ここで満月と佐野は出会った。
昔の佐野は可愛かったんだけどなぁ…。なんたって『満月ちゃん!』だったしなぁ…!!(悶)
だけど今は温泉バカだし地獄耳だし時々笑顔が怖いときあるし!
…まぁ、カッコ良くなったとは思うけどねっ。悔しいから本人には言ってやんない…っ!
買い物の事を思い出して慌てて満月はその場を後にした。その時ちらっと見えたのが積み木で遊ぶ園児。それさえも懐かしく思えて微笑んだ。
この時満月は気づかなかったが先ほどの園児が満月に”ヒント”を残していた。
―――”能力の応用”の―――――。
続
哀れ、熊のぬいぐるみ(合掌)
容赦なくザクザクと刺されてしまいました…。た、多分直すと思われます!(汗)
そしてワンコとめぐり合いました…!!良かったね、ワンコ!!満月さんの第一印象バッチリだよっ!(笑)
次あたりに李崩さんを登場させたいんですけどねぇ…。
巻数的にいくと今は3巻あたりを想像してください…。えぇー、植木君がロベルトと戦い終わったあたりです(早っ)
佐野君が出てこない以上ぱっぱと進めちゃうのでここは豪いマッハで駆け抜けます!
2005.8.30
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