第12話『大切な人』
辺りに爆風が通り過ぎた。
それは先ほど起きた爆発の所為だ。
満月は閉じていた目をそっと開いた。
あ、あれ・・?
どうして私、ケガしてないの?
まず自分の体を見て驚いた。体は糸に縛られ動かす事は出来ないが爆発が起きる前の自分と全く変わらない。
でも、何で・・・?
爆風で前が霞んでよく見えない。じっと目を凝らして正面を見つめる。暫くすると爆風がおさまった。
そして、満月は目の前にいる人物に唖然とした。
ひ、翡翠・・・!!?
男と対峙しているのは紛れも無い翡翠の姿だった。自分を庇うように立つその姿に言葉が出ない。
いや、違う。庇うように、ではない。
すでに庇った後だ――――!
「翡翠!!?」
「・・満月。無事でしたか?」
「う、うんっ。で、でも何で・・」
「満月が帰った後にモバイルが鳴ったもんで来てみたらこの様ですよ」
「・・・・」
その言葉に満月は俯いた。翡翠は後ろにいる満月に振り向くわけでも無く、背を向けたままだ。
「・・・ちっ。お前か」
男は忌々しそうに翡翠を見て舌打ちをした。
それをいつもと変わらない笑顔で翡翠は受け止める。
「・・気絶してませんでしたか」
「あぁ。後少し攻撃を止めるのが遅かったら俺はアウトだっただろうな」
「それは残念です・・。しかし、キミももう攻撃は出来ないでしょう?」
「・・!」
男は少し後退りした。その時右腕を庇うようにしたのを翡翠は見逃さなかった。
「・・では、貴方――いえ、紫水くんにはこの場を去ってもらいましょうか」
「・・・ふざけるな」
「ふざけてるのはどちらです?もう1度私の攻撃を喰らって今度こそ気絶しますか?
・・・貴方を気絶させる事くらい向こうに行くまでには容易い事なんですよ・・」
「・・・ちっ」
もう一度、男――紫水は翡翠を睨んだあと、その場を後にした。
何が何だか分からない満月はただ2人のやりとりを見ている事しか出来ない。
紫水が居なくなった事により、糸は普通の糸に戻りもう満月を束縛する力は無くなった。
満月は慌てて翡翠の元へと行こうとするが、それは叶わなかった。
「な・・っ!?」
翡翠を中心として大きな穴が現れたからだ。
満月は直前で立ち止まり翡翠を見る。しかし翡翠は笑顔で満月を捉えているだけだ。
「ひ、翡翠・・?」
「満月。このバトルでのルールを覚えていますよね?
勿論”神候補がいかなる場合もバトル中の手助けをすることを禁ずる”ということを・・」
「・・!!!」
神候補のバトル中の手助け・・・
さっきの爆発は、翡翠のもの・・?
翡翠が私を助けてくれた・・。
まさか・・!!?
「満月は言いましたよね、初めて会ったとき・・」
『私は別に”空白の才”が欲しいって訳じゃない。貴方の為に優勝する気もない。自由にやらせてもらう。…それでいい?』
「その時僕は思いましたよ。満月ならもし優勝しても”空白の才”を悪用しようとは思わない。
自分ではなく人のためにその才を使うだろう・・とね。満月は優しい子だから・・」
「!!」
ぐっと足を踏み込んでも体はピクリとも動かなかった。
なんで、こういう時に動かないのよ・・!!
「他の能力者達とは違い、僕達は本当に短い期間しか一緒に居なかった。でも、それでも他の神候補と能力者達よりはお互いを理解し合えていたと思います。」
「わ、私も・・!!」
満月は頬から涙が流れるのが分かった。
だけど、それよりも翡翠を行かせたくはない。その一心で拭くこともせずただ翡翠を見つめる。
動かない体が腹立たしい。今すぐにでも翡翠の元に行きたいのに・・・!!!
「・・そろそろ、時間ですね」
「! い、いや・・っ。行っちゃ嫌だよ・・っ!!」
駄々っ子のように泣き続ける満月を宥めるように優しく笑いかける。 満月はそれを涙で濡れた瞳で見つめた。
「満月と会えて本当に良かった・・・・」
「あ・・・っ」
「満月・・・」
すいませんね、佐野君・・・。
キミとの約束は果たせそうにないです・・・。
「貴女が思った事、考えた事、好きなように生きてください!貴女の人生なんですから!!」
「翡翠・・っ!!」
「さようなら、満月。僕の親友であり、大切な人―――」
翡翠はそのまま穴へと落ちていった。先ほどまで眩しい程の光が辺りを包んでいたなど、嘘のように辺りは何事も無かったように静まり返る。
金縛りのようなものが翡翠が居なくなった時と同時に消え、満月はその場にしゃがみ込んだ。呆然と彼がいたところを見つめる。
「・・・っ、さようならなんて・・言わないでっ・・」
ぎゅっとスカートを握り締めた。スカートは皺になって満月の手も力を込めすぎて白くなっているが、そんなのも気にならない。頭の中が翡翠でいっぱいなのだ。
「大切な・・私が、大切な人だって言うんなら・・・居なくならないでよ・・!!」
握り締めた手の甲にぽたっ、ぽたっと涙が流れ落ちる。
「翡翠・・っ!!!」
私も、私にとっても、翡翠は大切な人だよ・・・。
たとえ一緒に居た期間が短くても
私にとってかけがえの無い親友――――。
近くでじゃりっと砂を踏む音がした。その音に反応してゆっくりと満月は顔をあげる。
そこには、佐野の神候補である犬丸が立っていた。犬丸は満月の姿を見てぎょっとしてすぐに駆けつける。
「満月さん!!?ど、どうしたんですか?!そんなにボロボロで・・・」
「・・・・っ」
「どこか痛いんですか?!」
犬丸は地面に膝をついて満月に視線を合わせる。そんな犬丸を見て満月は思わず飛びついてしまった。
最初は驚いていた犬丸だが声を押し殺すようにして泣く満月を見て、何も言わずただ背中を擦ってあげた。
「・・痛いのは、心、なんですね・・?」
「うぅっ・・・っく・・・っ!」
「我慢・・しなくて良いんですよ?」
「あ、ありがとっ・・犬、丸さ・・・っ!」
犬丸にしがみ付いて満月は泣いた。泣き続けた。
先ほどの事は全て夢だった――と思い込みたかった
だが、心の痛みがこれは現実だと満月に刻んだ。
続
ここでやっと12話目です。
翡翠さんは満月さんを庇い地獄へと行ってしまわれました・・。
コバセンと犬丸と仲が良い彼のことです。きっと同じような台詞を言うだろうと思い言ってもらいました。
最後、何故犬丸がいたかというと趣味が散歩なんで(笑
ご、ごめんなさい。雰囲気ぶち壊すような理由で、ご、ごめんなさい・・・。。
次回、久しぶりにあいちゃんを出せます・・!!いよいよ鈴子お姉様も出せます!楽しみで仕方がないですv
2005.9.5
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