第15話『宴』
次の日。
植木君探しの準備を整えた私達は昨日と同じ駅に居た。
「で、どうやって植木君の所に?」
「このモバイルの地図を使って植木のところに行くの」
そう言って森は得意そうにモバイルを満月に見せた。
そして事細かにモバイルについて教えてくれる。
・・・そういえば、私。
あいちゃんに能力者だって事言ってなかったんだっけ・・?
恐らく私を一緒に誘ったのは清一郎の事があっての事だろう。
・・って事は、遅かれ早かれ私が能力者って事、バレる・・よね?
だったら、今のうちに言っておこうかな・・。
「でね、これが植木の法則なんだけど・・って、あれ?どうかしたの?満月ちゃん」
「え?」
「なんかぼーっとしてたけど。」
「あ、うんっ!大丈夫だよ!全然!」
心配そうに顔を覗き込んでくる森に笑顔で答える。
その笑顔に安心したのか森も笑った。
「なら、良いんだけどねっ!」
そこで満月はふと疑問に思った。
植木君のモバイルを持ってたら、他の能力者についても分かる・・筈だよね?
それなのに私の事を聞いてこないって事は・・やっぱり、知らないのかな・・。
満月はちらっと犬丸に目配せをした。それに気づいたのか犬丸は横に首を振る。
どうやら、森は満月が能力者だということを知らないらしい。
そこで満月はどうせ植木君と会って、ロベルト十団の所に行くんだったら分かってしまうだろうと思い、今言っておこうと決心する。
「あいちゃん」
「ん?なーに?」
「・・実はね、私・・・能力者なの・・・」
「・・・・・は?」
目を点にして満月を見つめる。
よほど驚いたのか手に持っていたモバイルが良い音を立てて落ちた。
満月はそれを拾い渡す。
「だからね、私もこのバトルに参加してるの・・」
「うそ・・・」
「ううん。嘘じゃない。本当は初めて会った時からもう能力者だったの」
「・・・・」
「でもね、植木君を倒したい訳じゃないよっ!!今は植木君の元に行って一緒に清一郎をロベルト十団から抜け出させる事が優先だもん!だから安心してっ」
森は暫くそのまま呆然と満月を見ていたが溜め息をついた。
真剣な表情で言う満月をぎゅっと抱きしめる。
満月は突然の事で頭が回らなくて思考が止まった。
「・・・辛いときがあったら言ってね。私は満月ちゃんの味方だからね」
「!」
先ほどより力を込めて抱きしめられ満月は不覚にも涙腺が緩んだ。
・・嬉しい。
ありがとう、あいちゃん。
そう言ってくれる友達がいて本当に嬉しいよ。
本当に・・
「ありがとう」
「いえいえv」
抱きしめていた腕を緩めると目線を合わせてにこっと笑った。
森につられるよう満月もにこりと笑う。
そんな2人を犬丸は目を細めてみていた。
「・・という事で。つっよーい味方も出来た事だし、さっさと植木の所へ行くわよっ!!」
「「おー!!」」
・・待っててね、清一郎。
今度は必ず、私が助けてあげるから・・
ぐっと拳を天に向け意気込んだ森に満月と犬丸も続いた。
だが、一つ疑問にも思った。
満月が能力者なのに反応しなかったモバイル。何故反応しないのか?
それは3人が同時に心の中で思っていたことだった。
信じられない・・あの明神を倒してしまうなんて!
元ロベルト十団、鈴子・ジェラードは目の前の出来事に呆然としていた。今まさにロベルト十団最後の1人。明神を倒した所だった。
「勝ったんだよ、コースケ!!お前、集会所にいた十団全員倒しちまったんだ!!」
手のひらに植木を乗せているのは、天界獣であるテンコだ。
植木は最初、そのテンコの言葉に呆けていたが次第に心の底から喜びが湧き上がって来るのを感じた。
「やったぁーーーー!!倒したかーーーー!!!!」
「へっ!」
「はい!ですわ」
喜んで叫ぶ植木をテンコと鈴子は嬉しそうに見ていた。
そして、テンコの手のひらから降りた植木の元へとボロボロの体を動かし向かう。
「植木くん!!」
「テンコ・・鈴子・・・ゴメンな」
「「!!?」」
突然の植木の謝罪に2人は驚く。
何の事か見当もつかない。
「オレが治療獣なんかに入ってたせいで・・・お前らにひどいケガさせちまった・・・」
その言葉からは後悔している意が込められていた。
鈴子はその言葉に首を振る。
「違いますわ、植木くん!!このケガは私の力不足のせいで・・」
「でも・・・」
「お前らのおかげで勝てたっ!!ありがとな。」
満面の笑みを浮かべた植木を見て鈴子は涙が滲んだ。
テンコはそっぽを向いているが照れてるのがすぐ分かる。
すぅ、と植木は一息つくと叫んだ
「よし!!このままロベルト倒しに行くぞー!!」
「待てーっ!!!」
植木の行動にぎょっとする2人。
慌てて集会所に向かおうとする植木を止める
「ま、待ってください!!ロベルトはもう集会所にはいませんわ!!集会所は私と明神が戦って、もう跡形も無くなってますわ!!」
「へ?・・そっか。くそー・・・」
鈴子の言葉に植木はピタリと足を止めて体を反転させて戻ってきた。それを見てほっとするものの心の中は複雑だった。
植木くん・・・やっぱり。
ロベルトも倒すつもりなんですわね・・・・。
ぎゅっと自分の左腕を握り締める。
そして、俯いてロベルトの事を考えていると元気な女の子の声が聞こえてきた。
「あ、いた!!!植木ーーーーー!!!!やっと見つけた!!」
「森!!?」
その少女の出現に一番驚いたのは植木である。
他の2人は当然のごとく面識が無いため、頭に疑問符を浮かべ見つめる。そして森と呼ばれた少女は植木の元に行くと一発思いっきり殴った。
「!!?なんでココに!!?」
「あんたうろちょろ移動しないでよ!前、あんたに聞いた最寄り駅から、モバイルの地図たよりに来たのに・・森の中で迷っちゃったでしょ!!?」
「僕が森さんに連れてきてもらったんです。」
ザッと現れたのは帽子を被った男だった。
声のした方に振り向くとその男の隣に見覚えのある人物も一緒だということに気づく。植木はその人物の事を思い出す。
「植木くん・・・初めまして。神候補、犬丸ともうします!!」
「!!?」
「こんにちは、植木くん!久しぶりだね〜。私の事覚えてる?」
「・・・・・・・満月!!?」
「うんっ(ちょっと間があいたなぁ・・」
犬丸の横に初めて会った時と変わらない笑みを浮かべる少女、満月は犬丸の事を紹介する。
だが、植木にはこの時の満月の笑顔はどこか元気が無いように見えた。
「犬丸さんは、清一郎の神候補なんだよ」
「清一郎・・?」
「植木くん・・佐野清一郎を覚えているかい?」
その言葉にいち早く反応したのは鈴子だった。
そして、満月と言われた少女を凝視する。
満月・・・まさか、あの子が”孤高の戦姫”ですの!!?
「実は・・僕の担当してる佐野くんが、今大変なコトになってる・・キミの力を貸してくれないか・・・」
「!!?」
ロベルトは今、ある人物が来るのを待っていた。
足を組み、いつもと変わらない表情を浮かべている。
カツ・・と足音がした方を見ると待っていた人物が居た。
その姿を見て更に笑みを深くする。
「やあ、遅かったね・・待ってたよ。」
ロベルトの前に現れた人物。それは―――
「ロベルト十団、佐野清一郎!ただいま到着や。」
満月の幼馴染であり、犬丸が見込んだ正義の持ち主。
佐野清一郎だった。
そして次に現れた人物。
「うえ〜〜!!誰かと思えば佐野けぇ〜!
ココは野郎のたまり場かぁ〜!?」
ロベルト十団の参謀司令官である、通称カルパッチョだ。
「お?才が5つ増えてんな、佐野。今回の戦果は5人か。」
モバイルを見て佐野を確認しながらカルパッチョは言った。
そんなカルパッチョを見て佐野は睨みつけるようにして言う。
「カルパッチョ!これで約束の20人撃破まであと2人。約束は
守ってくれるんやろうな!!」
「あーあ、もちろん!野郎の頼みとはいえ約束は約束だ」
「さよか」
その言葉を聞いて佐野は一息ついた。
あと2人・・。あと、2人倒せば助けられるんや・・・。
「ところで、十団のメンバーが全員やられたゆうんはホンマかいな。
しかもたった一人に」
「あ――」
「どこのどいつや?あの鼻持ちならん明神のガキを倒したんは?」
さして興味が無いように佐野は聞いた。
だが、次のカルパッチョの言葉に驚いて振り向く。
「植木耕助って奴だべ」
な・・・何やと・・・!!!?
「あ、そうそう。その植木って野郎の実力を評価して、
ちょっとした宴を催すことにしたんだったよなあ、ロベルト!」
「!?」
「ちゃんとこっちの頭数も、そろえてあんべ。弱虫アレッシオがやられた時点で2人ほどスカウトしといたんだよ。まぁ、1人は進んで入ってきてくれたがな」
そして現れたのは3人の能力者。
「あーどーもー。」
大きな図体でケーキを食べている少年、ユンパオ。
「フン。」
ユンパオと比べるとかなり背が小さいが、ただならぬ雰囲気を持つ少年、カバラ。
そして、
「・・・・・」
学ランを着た普通の格好の少年。
この少年こそ、翡翠を地獄へと行かせた紫水だった。
「・・・・!!」
「わかってると思うけど、オレが連れてきた2人だ!同じテツは踏まねー!2人とも明神よか実力は上だべ!あー、勿論。そこの学ランのやつもな!・・むしろそこの2人、あるいは佐野よりも強いかもなー!」
佐野は2人をじっと見た。だが、その2人よりも気になるのは学ランの方だ。先ほどからずっとこちらを見ている。
集まった能力者たちを実に満足そうに見たあと、ロベルトは言った。
「佐野くん、キミにもこのパーティに参加してもらうよ?もちろん、いいよね?」
その言葉にはもはや拒否権など無かった。
有無を言わせない。そんな迫力がある。
佐野はロベルトをじっと見ていた。
だが、隣に来た学ラン男に目を見遣る。
「なんや?」
「・・お前、神崎満月を知ってるよな?」
「・・!!」
佐野は目を見開いた。その反応に紫水は口の端を上げる。
聞き方はすでに確信を持った言い草だった。
「俺は、神崎満月を潰すために来た」
「なっ・・」
「邪魔は、するなよ」
全身に殺気が伝わってきた。
こ、こいつ・・・!!!
ぎゅっと右手を握り締める。
紫水はニヤリと笑い、その場を後にした。
その後姿をギッと睨みつける。
・・満月に手、出したら許せへん・・・
だが、今は自分はコチラ側の人間。
どうする事も出来ない。
ぐっと握り締めた手を見つめる。
オレには、身を案じる事しかできへんのか・・・。
佐野は数日前の幼馴染の顔を浮かべていた。
続
15話目でしたー。
久しぶりの佐野くん登場にウハウハです!!
そして出ちゃいましたよ、紫水くんっ。あーあー。でも、最初の方しかオリキャラは出張りませんから・・(言っちゃったよ、この人
次回は鈴子お姉様のオンパレードかと(笑
鈴子ちゃんとお友達になってもらいますっ!!
同級生ということもあり、動物(可愛いもの)好きということもあり、今後意気投合するキャラなので、次回が何気に重要だったり!!(笑
2005.9.10
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